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「!。あら…ありがとうございます。あなたったら…。」
乳母車の中では赤ん坊がすやすやと眠っている。
それを見た妻は目を丸くさせ驚いた後、もう一度目を細めて笑顔を作った。
体重3000g、身長500mm、触れれば溶けてしまいそうな柔らかな皮膚、大きな頭にこぼれ落ちそうな頬。
『定期的なアップデートは必要だが、成長もしていくんだよ。』
私は発明家だ。
出生したばかりの人間の子の形をしたこの赤ん坊は、妻のために開発した私の作品である。
「覚えててくださったんですね…、数年前に言ったことを。」
『開発に時間がかかってしまってね。』
乳母車に腕を伸ばし、子を抱き上げた妻。
その様は血の繋がりのある母子にしか見えない。
「柔らかい…。あっ、少し目を開けましたよ。この子は何で骨組みされてるんです?」
『人の骨や関節部はアルミニウムだよ。軽量で強度もあるからね。』
「アルミニウム婚式だけに、ですか?」
『それは…たまたまだ。』
「ふふ、冗談です。」
悪戯に笑った妻は顔を我が子に近付けて、新しい生活の始まりですね。と呟いた。
それは、大切な女性である妻が、母になる瞬間であった。
目の前で繰り広げられる、まるで映画のワンシーンのような光景を、私は決して忘れまいと目に焼き付けた。
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