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グチャ、と鈍い音が研究室内に響いた。
足元に視線を落とせば、そこには身体の関節をあちらこちらに向けながら液体を垂れ流し、完全に動きを停止させた我が子があった。
妻は、私の目の前で我が子を床に叩きつけたのだ。
突然の出来事に、私は怒ればいいのか悲しめばいいのか分からず、ただただ起きた事象だけを考える事しか出来なかった。
『それはお前が…子どもが欲しいと言ったから…。」
「私は貴方との子を!産みたかった!こんなニセモノで…代用出来る気持ちではない…!」
『ニセモノ…、』
取り乱し涙を流す妻。
彼女をこんなにも怒り苦しめるものはなんだろう。
私のしたことは間違っていたのだろうか。
ただ、彼女の幸せを考えたのだ。
願いは全て叶えたいと思ったのだ。
大切な女性を喜ばせたいという気持ちが生んだ、行動であった。
しかし、私のすること全てが、自己満足だったとでも言うのだろうか。
思考をグルグルと巡らせても、答えが見つからない。
人の気持ちを理解するとは、こんなにも難しく哀しい。
10年寄り添ってみても、彼女の考えていることですら分からない私に、出来ることは1つしか残されていなかった。
私は恐る恐る妻に近付き、大きく手を広げ胸の中に彼女の身体をすっぽりと収めた。
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