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まったくふざけんなよ…… 俺は後ろを何度も確認しながら歩いている。 なんかゲーム買ってもらっちゃったし。
いやー、男に迫られると背筋がゾクゾクして寒気がしたわ。 ってあら? 実と接してた時は汗かいてなかったな、制汗スプレーよりいいかもあいつ。
なんてもう2度とこんな格好で会うわけないけど。 とりあえず落ち着き出したら暑いのもぶり返してきたようで実がつけてきてないかその後も周囲を気にしながら気を付けて帰った。
それにしても男に好かれるってマジでキモいな、同性だからそうなんだろうが女はよく男と付き合えるなと思ってしまう。 まさか沙良も俺と会った時そんな風に…… いやいやそんなことないはずだ。
ということも今頃実も思っているだろう。 あの様子じゃ思ってないな。
そして次の日学校へ行くと実が俺のところへやって来た。
「なぁなぁ柚月」
「なんだよ朝から」
この実のソワソワ具合昨日のことを言ってきそうだな。
「昨日さ、久しぶりにお前の家に遊びに行こうと思ってたらめちゃくちゃ美人な子に触っ…… 会った」
「触ったって言いかけなかった?」
「いや会った。 ちょぴっと触ったけど」
「そいつはキモいな、んで?」
そう言うと実は不敵にに笑う。 なんかまたゾワゾワしてきた。
鳥肌が立つのを感じながら実の話に耳を傾けた。
「柚って言うんだその子」
「へぇ…… 名前まで聞いたんだ? 見ず知らずの子に」
「いやいや! なんかその子目泳いでてさ、俺と顔合わせるの恥ずかしがってたっていうかもしかしたら俺に一目惚れってことも」
やめろよ馬鹿野郎マジでキモいぞこいつ。
「んなわけないだろ初対面で。 お前の視線が気持ち悪かったってだけじゃねぇの?」
「ダメだなぁお前は。 それくらいの気構えで行かないとモテねぇぞ」
なぜこいつにモテ議論をされなきゃいけないんだろうか? ちなみにお前の言ってる子って俺だかんな??
「ああ、柚……」
「やめろ、俺が呼ばれてるみたいで不快だ」
「そういや似たような名前だな、んでさ……」
まったく気付いてないなこいつ、こりゃ心配しなくても大丈夫かな。
それから幾日か経って実の柚ブームが落ち着きを見せ始めるだろうな。 そう思った、けどそれは間違いだった。
「また? なんで??」
「まぁそう言わずに。 わざわざ反対方向に来てやってるんだから」
「誰が頼んだ?」
こいつはそこで柚に出会ったから何回も通い詰めていればそのうちまた会えるかもしれないという迷惑なことを言い出した。
そんなことしなくても柚は隣にいるかんな? でもいい加減にしてほしいわ、狙い自体は悪くないかもしれない、俺もたまに行くし。 けどその柚が俺だってこと自体がアウトなんだよ。
「はぁ〜、今日も待ち人来ずかぁ」
「それより俺を付き添わせるのやめてくれないか、どっちかって言ったら俺邪魔なんじゃね?」
「そうなんだけどさぁー」
んじゃ付き合わせんなよ!!
「けど実際目の前にすると何喋っていいかわかんなくなりそうじゃん。 この前も敬語になっちまったし」
「だな、同いど…… それはそうかもな」
危ねぇー! 緊張感なんてもうないから同い年の女の子になりすましてた俺に敬語とかマジで引いたぞなんて言い出しかねない……
「諦めろよ、連絡先とかも聞いてないんだろ?」
「初対面でそんなこと出来るかよ」
いやー、既に連絡取り放題だから満足してくれよと心の中で思った。 けど俺が自分を偽りこいつを騙したこともあるので少し可哀想になってきたのと何か解決すれば俺の沙良への罪悪感が少しでも減るかもしれないという自分に都合の良い考えが頭をよぎってしまった。
「まぁがっかりする気持ちはわかるけど明日も来てみようぜ?」
「お前に何がわかるんだ? つーかなんだよ急に乗り気だな?」
「ここまで来たら会うまでとことん付き合ってやるさ」
「よし、じゃあ明日な」
「おう」
店の前で実と別れて物陰に隠れた、いざという時のために鞄に女物の服を隠し持っていたので店の裏が建物が建っているので周囲に注意しながら着替えて店の中に入り髪で顔が隠れるくらいには伸びていたので下を向いて女子トイレに入った。
バレてないよな?
俺は急いで化粧をして携帯を手に取った。
あ!! なんて連絡したらいいんだ? どう考えてもタイミング良すぎやしないか?? いやでもここでまごついてたら実の奴電車に乗っちまうし……
俺は『めちゃくちゃ美人な子と今すれ違って店の方に行ったぞ』と実にLINEするとすぐ既読になり『行ってみる』と返ってきた。
はぁ…… こいつが単純で良かった、多分疑われてない。
店の中で待つこと数分、ゲームコーナーをウロウロしていると実がやってきた。 走ってきたのか息が荒い。
来てしまったか、こうして実を前にすると俺も何喋っていいかわからなくなってきた。 というか一方的に好かれてるのが辛い、それも男から。 しかもクラスメイトに……
「あれ? 君は確か実君?」
「柚…… さん」
「どうしたの? 息切らして」
「ええっと…… 欲しいゲームがあったって教えてもらったから友達に」
「そうなんだ」
気不味い空間…… 何か話題はないものか。
「どれ?」
「こ、これ!」
明らかに棚から適当に取ったなこいつ。 しかも適当に取ったのが恋愛シュミレーション。
「こういうの好きなんだ?」
「ファッ!? じゃなかった、これ!」
「ふふ、落ち着きなよ実君」
「あ、えーとそうだね。 そういえば柚さんって何歳ですか?」
「そういう実君は?」
「16! 高1です」
「なんだ、同い年だったんだ。 だったらタメ口でいいよ」
「そ、そうだね。 同い年だったんだ…… あ、学校とかは? 私服みたいだけど」
「今日早退しちゃったんだ」
「そっか。 い、家はこの辺?」
「うん、実君は?」
「俺はちょっと離れてるかな、友達がこの辺に住んでるからたまに遊びに行くんだ」
たまにというか一回しか俺の家に来てないけどなお前。
「へぇ」
「あ! そういえばこの前ゲーム面白かった?」
「ああ、うん! 彼の言った通り面白かった」
「…… へ? 彼??」
すまん実、これはもうこう終わらすしかないんだ。
「何か面白いゲームあるって聞いたら彼ったらそのゲームあるって言ってたくせに売っちゃってたみたいで。 中古なら安いし買ってみればって言われてて」
「そう…… なんだ。 は、ははッ、そりゃそうだよね、はは」
こいつの心境を思うと複雑だ。 お前上手く笑えてないぞ、めっちゃ顔引き攣ってる。
「実君? 大丈夫??」
「え、ああ大丈夫! なんかちょっと走ってきたせいでテンションがおかしくなってるんだよきっと。 そうだそうだ、ゲーム買いにきてたんだった」
そのままフラ〜ッと適当に選んで欲しくもない、しかも適当に取った故にあまり安くなってないゲームソフトを持ってレジに進んだ。
そして会計を済ませて実はこちらに振り返り「じゃあまた」と引き攣った笑顔で店を後にした。
なんてわかりやすい奴なんだ…… でもこれで実も踏ん切りがついたろうし俺も余計な嘘がひとつ減った。
だが考えてみれば実とそう変わらなそうな結末を辿りそうな俺はそのことは考えないようにした。
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