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「……」 「そんなに落ち込むなよ、下手に想って長引いて彼氏いるってわかるよりよかったじゃんか」 「お前にはわからねぇ」 痛いほどわかるぞ。 俺もそのうちこいつと同じ思いをすることになると思うと落ち込んできた。 「そぉいやお前ってどことなく柚さんに似てるよな」 「は?」 な、なんで今頃になって。 まさか今までは柚に盲目でフラれて冷静になってしまったのか!? もしやまた俺のやったことが裏目に…… 「なわけないだろ?」 「思えばいろいろとタイミング良すぎだよな、お前が見たのがたまたま柚さんだったとか」 「そ、そうか? そんなこともあるって」 「お前もしかして……」 くそ、バレたか…… ?  「柚さんと知り合いとかじゃねぇよな!? その辺に住んでるって言ってたし」 「…… は? 知らねぇよ、そんなん初耳だし。 てかひとつ聞きたかったんだが」 「なんだよ?」 「お前その柚さんとやらを夜のオカズとかにしてないだろうな?」 「そんなんするはずねぇだろ!」 そうか良かった。 俺がこいつの慰み者になるなんて嫌だからな、けど、いつこいつが何かに勘付いてしまうかわからないので柚の話題にはあまり加わりたくないな。  それから数週間経って夏休みに入ろうとしていた。  「柚月ーーッ!!」 「わぁッ、ビックリした」 ちょっと間が空いたけど今日は沙良と遊びに誘われて待っていたところ俺を見つけるや否や飛びついてきた。 沙良と密着…… 反応しちゃいけないところが反応しているので沙良を慌てて離した。 「化粧取れちゃうよ沙良」 「だって久しぶりなんだもん! それに今日の私薄メイクだから大丈夫」 「ホントだ、沙良って元もいいから羨ましい」 「柚月もでしょ! ねぇ私お腹空いたぁ、朝食べてきてないの」 「じゃあどっかで食べようか」 なんだろう、久しぶりなせいかは知らんが沙良に凄く密着されてる。 腕組みされてずっと胸押し付けられてんだけど…… 歩くたびに腕にムニュムニュと胸の感触が伝わってくるので込み上げてきたものを隠すために俺はバックを前向きに持ちなおした。 それに沙良の奴暑くないのか? 俺なんてもう暑くて背中濡れてきたんだが。  「はぁ……」 「柚月溜息した」 ムスッとした顔で沙良に言われた。 これは不快なんじゃなくて下の方に行った感情を落ち着かせるためであって…… というか沙良の奴華奢に見えて胸結構大きいな。 これは良い、いや良くないが。 「あ、そっか暑かったんだね、ごめんごめん! 暫くぶりに柚月の顔見れたからついはしゃいじゃった」 「そ、そうなの。 バカみたいに暑くて」 「まったくー! 暑がりさんなんだから」 そう言って沙良が俺の正面に回ってきた。 「んー……」 「何?」 何かミスを犯したか? 前の方も隠してるし何もないはずなんだけど。 「柚月もうちょっとメイク薄くした方が顔涼しくなっていいんじゃない?」 ホッ、そんなことか。 ケバくしてるのは同級生とか知り合い対策のためなんだよ、遠目から見たら俺だと気付き難いし。 「考えとくよ」 「私がメイクしたげよっか? てかやってみたーい!」 「ダーメ」 鏡で要チェックはしているけど自分じゃ見えない部分で何か不備があるかもしれないしな。 まぁ…… 沙良ってここまできても俺が男だって気付いてないから結構鈍いのかもしれないが。 メグミが言ってたみたいに前に沙良を助けたから俺にとって何か都合の良いフィルターでも掛かってるんだろうか? 「ケチ! 私が柚月の顔をキズモノにすると思ってるなー!?」 「思ってないから。 それよりどこか店に入ろう、お腹空いてるんでしょ?」 「そうだった!」と思い出した沙良は近くの店に入りハンバーガーを頬張る沙良を見てると…… 「柚月それだけ?」 「俺…… わ、私は食べてきたから!」 や、やってしまったぁーー!! 俺とか言っちゃった。 「俺??」 沙良の食べてるとこ見てたら気が緩んで素になっちまってた…… 沙良はめっちゃ不思議そうにこっち見てるし。 「うわぁ……」 「柚月?」 「兄貴とたまに話すと口悪くなるからさ、今日もちょっと喧嘩しちゃって」 「ダメだよ柚月、お兄さんと仲良くしてあげないと。 なかなか可愛いかったし」 セーフ…… か? 「ねえねえ、なんでそんなに仲悪いの? 仲直りできるなら私が取り持ってあげよっか?」 ダメだろそれは、兄貴なんていないんだから。 身体がもうひとつでもない限りは。 「いいよいいよ、兄貴が沙良に惚れたらどうすんのさ?」 「だって彼女いるんでしょ?」 「そうだよだからだよ。 沙良の可愛さでもし乗り換えなんてなったら目も当てられないしさ」 はぁ、どんどん自分で俺の株を落として行っているような気がする。 「んむぅー。 柚月の家に行けると思ったのに」 「へ?」 「こうしてお出掛けするのも楽しいけどそろそろ柚月の家に遊びに行ってもいいかなぁって」 「お、おお……」 じゃない!! 何嬉しそうにしてんだ俺は。 一大事なんだけど沙良が俺の家に来てくれる、こんなにハッピーなことあるか? いやでも沙良は女友達として遊びたいってことだしそれよりも家に来たら俺が男だってこと絶対バレる…… か? 兄貴がいるって設定だったら男物とかあってもおかしくないのでは? でももし一緒に風呂とか入ろうとか言い出したら? 沙良ってそういうの女同士なら躊躇わない気がするから言い出しそうな気もする。 全裸じゃなくてもバレるかバレないかって心配しているのにそれは無理だ。 かと言って唯一こんなことを話せそうなのはエリカとメグミ。 絶対軽蔑されるに決まってる、変なことしてないかってうるさいし。 「…… 月、柚月」 「は? え? 呼んだ??」 「なんでどこか遠くに行っちゃってるの? 私が柚月の家に遊びに行くのイヤ?」 「そうではないけど…… うちの親うるさいし」 「友達だよ? 男の子の家に行くわけでもないし」 そうだった、けど俺は異性として見てるから。 何より親は俺の女装知ってるから鉢合わせしたら地獄を見るぞ。 「わかった、考えとくから!」 「やったぁ!」 ふぅ、とりあえずこう言っておけば今後いつかそのうちってことになるからこれで良いとするか。 もし沙良が来た場合に備えて俺は部屋を女子コーデにしておく必要あるのか? ああ、そんなことになったら親が発狂しそうだ。
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