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「あらおかえり、どうしたの? 汗だくじゃない」
「いつもだろ!」
母さんのことなど放っておいて部屋へと直行した。 部屋の中に入りエアコンのスイッチを入れて一息つく。
「はぁ〜」
深呼吸をしてベッドに寝転がった、汗ばんだ背中が冷たくて気持ち悪かった。 そんでもってスマホを取り出した。
「何も来てない」
ベッドの上で今日のことを冷静に振り返るとなんてことをしてしまったんだと顔を手で覆った。 あの時実を置いてきたのは失敗だった、沙良がもし実に話し掛けて俺のことを聞いたなら何も知らない実はあれよあれよと答えてしまうだろう。
俺の名前が柚月だということもバレて恐らくそこから中原柚月に辿り着くかもしれない。 ああ! 自分の迂闊さを悔やんでも悔やみきれない。
これを解決するためには何か沙良から連絡が来てくれることなんだがこういう時に限って来ない。 LINEは当然だが中原柚月名義だ、2回目に遊んだ時に用意した、急に変えたから同級生からは突然なぜ? となったが。
なんてそんなことより明日学校に行きたくない、なんて実は答えたのか。 そもそも話したかすらわからない。
そんなこんなで時間が過ぎて寝る時間になったところでハッとした、普通に実に連絡してきけばいいじゃんということに。
なので実に急遽連絡したが既読にならん、いつまで経っても。
こんな時に限って!! 早く見ろ!
だがついに連絡が返ってこないで朝になった。 眠い…… ろくに眠れなかった、なんでこんなことになったのだろうか。 沙良からも何もないし結局なんでもなかったのか?
俺は朝学校に登校すると……
「うおっす!」
「うおっす! じゃねぇよ、昨日の俺のLINE見たか?」
「てかなんで昨日帰ったんだよ?」
「…… 用事思い出した。 それより昨日は」
「それがよぉー、お前行った後はなんもなかった」
「へ?」
「だからなんもなかったんだよ、あーあ」
何もなかったのか? 沙良は俺に近付いて来ようとしてたけど。 そうわかった途端ホッとした。
「おい」
「なんだよ?」
「リベンジだ」
「は?」
「リベンジだよ! 鈴鹿女子と合コンすっぞ!」
何を言ってんだかこいつは。
「そんなの取り合うはずないだろ、あっちが」
「いやいやわかんねぇぞ」
「アホくさ」
その週の週末俺は沙良から遊ぼうと誘われ駅で待ち合わせをしていた。 例によってバッチリメイクを決めてだ。
「お待たせー! 待った?」
「全然、こっちも今来たとこ」
沙良は普通だ、当たり前だが。 しかし歩いていると沙良の視線がチラチラと俺に向いている。
「んーと…… 何?」
「え? ええとね、この前バスケ部の試合で他校の生徒と練習試合したんだけど」
ギクリ!!
「へぇ、沙良ってバスケするんだ? 意外だなぁ」
「結構得意なんだよ私」
「うん」
「うん?」
しまった! 見てたから思わず「うん」と頷いてしまった。
「い、いや、沙良って運動神経良さそうだし」
「意外って言ったのに?」
「それはええと…… 運動神経良さそうだなって思ってたけどバスケとは意外だなぁってこと」
「こう見えて小学生の時から得意だったんだ! ってそれよりさ、その時見学なのかな? その高校の生徒でね、柚月に超そっくりな男子生徒がいたの!」
ギクギクッ…… そりゃあ俺だもの。
「お…… 私にそっくり? 凄いね」
「でしょー!? 思わず話し掛けちゃいそうになったんだけどその子どこかに行っちゃってさー」
「そうなんだ…… てかよく話し掛けようとしたね?」
「あ、だね! 柚月とそっくりだったから警戒心薄れたのかも、あはは」
「ははは……」
ダメだ、乾いた笑いしか出てこない。
「にしてもホントそっくりだったなぁ」
「ちょッ、近いって」
沙良が俺のほっぺを両手で押さえて覗き込んだ。
「えへッ、柚月照れてる?」
「キスでもされるかと思った」
「柚月がもし男の子だったらなぁー、私惚れてたかも」
な、なんですと!? 俺は男なんですが? とここでは絶対言えない、けど俺に脈ありってことだよねそれ。
「なんちゃってー!」
「何がなんちゃってよ」
って冗談かよ!!
「だって柚月って美人だし私より身長高いし、胸はぺったんこだけどスタイルいいし色白いし」
「胸ぺったんこは余計」
通販で胸は売ってるんだけど(売ってる店に行くのはなんか恥ずかしいし)化粧品で金がヤバいのでそこまで揃えられない。 というかそういうとこ女ってよく見てるのか? 気を付けなきゃ。
なんちゃって女の俺にはよくわからないことも多いからな、何がキッカケでバレるかわかんねぇぞ、逆に今まで上手く行ってたのが奇跡なのかも。 そもそも上手く行ってるのかすらわかんないが。
「あ! そうだ、この辺で結構評判のいいスパがあるんだよね」
「ス…… スパ?」
そ、それはもしやマッサージとかサウナとかはたまた温泉とかそういう……
「美容にも良さげだし柚月も汗っかきだからサッパリとしてって…… 凄い汗だよ」
「んあッ!!」
柚月がハンカチを取り出して俺のおでこの汗を拭った。 これはヤバい、今絶対黒い汗が頬を伝っていることだろう。
「げ…… ちょ、ちょっとトイレ!」
「え? あ、うん。 私も行く」
ついてこなくていいのにッ!!
沙良を引き離そうと駆け足でトイレへ向かう。 動揺したせいで物凄く見苦しいことになってる、誰も俺を見ないでくれぇーーッ!
どこをどう通ったかわからずにトイレに駆け込んだ。
「ッんは! ハァハァッ、柚月速すぎ、はぁー、私まで汗かいちゃったよ…… もういない!?」
「ちょっとぉーッ!」と沙良の声が聴こえるが俺はもうトイレのドアを堅く閉める。
焦った、しばらくクールダウン出来る時間が欲しい。 こんな時には何を思えばいいだろう? そうだ、実の顔でも思い出そう。 あいつのゲス顔を思い出せ、いろいろと萎えてくるだろ。
そして数分後……
「ねぇ柚月ぃ〜、まぁ〜だかなぁー?」
沙良がコンコンコンとトイレのドアを突つく。
「お待たせ」
「わッ! いきなりドア開けないでよぉ〜。 私がお鼻ぶつけちゃったらどぉするの? って内扉でしたぁ。 ありゃ?」
沙良が僅かな時間でメイクを完璧に直したので「ほぉ〜」と驚いた顔をして俺を見る。
「何か?」
「ううん、凄い早技……」
俺がさも当然のような顔をしているので沙良はニヘッと笑って「じゃあ行こっか」と言って俺の手を取った。 つーかどこに?
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