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動揺で固まる私をよそに、男の人は私の肩になれなれしく手を置いて、アルファ様を呼びます。
「おーい! アルファー君! そんなところでイチャついてないで、妹さんが困ってるぞー」
声に気づいたアルファ様は、怪訝そうな顔でこちらを見ました。大股で歩いてくると、私の肩に置かれた男の人の手をひねりあげます。
「いででっ」
「気安いぞ、ヨーゼフ」
「なになに? なんで、そんなに怒ってんの?」
「ロンダに触るな」
「へ? ロンダ?」
ヨーゼフと呼ばれた人の手を乱暴にはらって、アルファ様が私の方を向きました。
「すまない。ヨーゼフが失礼した」
「あ、いえ……」
アルファ様は顔を険しくされて、ヨーゼフ様を睨んでいます。優しい顔ではなく、とても怒っています。険悪な雰囲気に私はおろおろと、二人の顔を交互に見ました。
「この子が、愛しの婚約者殿なの?」
愛しのという言葉に頬に熱が帯びました。情熱的な手紙の内容を思い出してしまい、頭がのぼせます。
「ヨーゼフ……」
「あら、違うの?」
「違わなくはないが……」
アルファ様は嘆息して、私の方を見ました。
「紹介する。私の仕事仲間のヨーゼフだ」
仕事仲間。どうりで同じ格好をされていると思いました。
首を包むほど高さのある折襟。上半身はタイトなジャケットで、アルファ様の逞しい体が強調されています。ウエストより高い位置にある太めのベルト。乗馬パンツを履いていて、太ももはふっくらとしていました。
前に見た姿より、輝いて見えます。素敵……
すっかり魅了されていると、ヨーゼフ様が片手をあげて、明るく笑いました。
「アルファ君の仕事仲間のヨーゼフです。ミューゼル子爵の気ままな四男坊だから、結婚相手としてはお得だよ! あ、ちなみに恋人募集中なので、宜しく!」
早口で言われてしまい、ぽかんとしてしまいました。私も慌ててご挨拶します。
「初めまして、ヨーゼフ様。私はミ――」
「お姉さま! 私もご挨拶したいですわ!」
ロンダが私とヨーゼフ様の間に、体を割り込ませました。相手に聞こえないように、私に小声で話しかけてきます。
「だめよ、今のあなたはロンダ。ロンダよ」
「ご、ごめんなさい……」
こそこそ話していると、ヨーゼフ様がこてんと首をひねります。
「どうかしたの? 今、ミって言った」
「ほほほほ! 空耳ですわ、ヨーゼフ様。私はロンダの妹、ミランダです。そして、こちらが姉のロンダですわ」
ロンダに肘でこづかれて、私はこくこく頷きます。
「そっか~。そうだよね。君たちはなに? 買い物?」
「ええ。買い物と、本を借りに来たのです。ヨーゼフ様たちは、お仕事ですか?」
「うん、そう。今、休みでね。喫茶店にでも行こうかと思っていたところだよ。あ、君たちも一緒にどう?」
「まぁ、それは素敵なお誘いですわ。ね、お姉さま!」
「え? ええ……」
「アルファ君もいいよね?」
「あぁ……」
こうして、私たちは偶然にも会えた場所でお茶をすることになってしまいました。
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