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「この先に、とても美味しいスコーンを焼くお店があるんですよ」
「へぇ~、奇遇だね。俺たちの行きつけも美味しいスコーンを焼くんだ」
「まぁ、それじゃ、一緒のお店かもしれませんね」
ロンダとヨーゼフ様が会話をしながら、先に歩き出してしまいます。残された私はぽかんとしてしまって、歩けずにいます。
「久しぶりだな……」
アルファ様が声をかけてくれました。顔をみると、微笑されています。
「その……元気そうでよかった」
アルファ様の声を聞くだけで、かっと頬に熱があつまりました。
「はい……アルファ様も……」
私は恥ずかしくなってしまい、前に手を組んで、うつむきました。
「お花……ありがとうございます。お返事ができずに申し訳ありません」
「私の方こそ、いきなり送ってしまい、すまなかった」
ぱっと顔をあげます。
「いえ! とても嬉しかったです!」
送られてきたカーネーションの花は、とても鮮やかなオレンジ色をしていました。可愛らしい花束に驚いて、添えられていた手紙に赤面したものです。
お返しをどうしようか迷っているうちに時が経ってしまい、町に出る日に贈り物を買おうと思って来たのです。私の鞄の中には、アルファ様への贈り物が入っています。
まさか、そんな日に本人に会えるなんて。
「おーい! なにやってんのー!」
先に行った二人がこっちを見て、呼びかけてきました。
「行こうか……」
「あ、はい……」
並んで歩き出します。
「アルファ様」
「?」
「頂いたお花は、押し花にして、しおりを作りました」
枯れるのがもったいなくて、鮮やかなうちに押し花にしてしまいました。
「アルファ様からの初めての贈り物ですもの……私、一生、大事にしますわ」
ありったけの感謝の気持ちを込めて、アルファ様に微笑みかけます。すると、アルファ様はピタリと足を止めてしまいました。
眉間が険しいわ。手で口元を押さえているし、耳もぴくぴく動いています。怖い顔をされていますが、これは、照れているのかしら。
「また贈る……」
「え?」
「また、君に似合う花を贈りたい」
「……はい! お待ちしてます!」
微笑むとまた、アルファ様が口元をおさえます。くすぐったい気持ちになりながら、二人が待つお店へと向かいました。
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