出会い編 欲しいならば sideアルファ

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 その後、彼女の返事はこなくて、虚しい日々が続いた。毎日、詰所(つめしょ)の配達係に確認をしているが、一向に手紙がこない。あからさまにため息をついてしまい、近くにいたヨーゼフが声をかけてきた。 「毎日毎日、うっとおしいぐらいため息をついてどうしたの?」  ムッとして、顔をしかめる。 「別に……」 「ちっとも、別にって顔じゃないけど、どうしたの? 話してごらんよ。一人で悩むより、誰かに話す方が気が紛れるよ?」  ヨーゼフの言葉に余計なお世話だと思いつつ、心は限界だった。私は休憩時間に、彼に婚約式を断れるかもしれないと話した。  彼はやれやれと言いたげにため息をついた。 「で? いつまでウジウジしているのさ」  言い方に腹が立って、短く答えた。 「今は、待つしかないだろう」  私に何ができるというのだ。 「そんなの逃げだよ」と、ヨーゼフは切り捨てた。思わず眉根をよせる。 「だいたい、どうして急に婚約式なんて言い出したの? なんかいいムードだったから、勢いで?」  その通りだから、言葉に詰まった。言い出したきっかけは、勢いだった。でも。  私は手を前に組んで、指先を見た。知らずに指先に力がこもっていた。 「……彼女を早く自分のものにしたくなった」  ぴゅーっと、からかいの口笛がなる。ヨーゼフを睨むとニヤニヤされた。 「本気になっちゃったんだ」 「そうだな」  隠すことでもないので、素直に言うと。 「いいね、いいね。君から婚約式を言い出すなんて初めてじゃないの?」  指摘されて、確かにと思った。破談になると思っていたから、婚約式をすることすら、最初は考えていなかった。今までも、婚約式の前に断られていたから、私から言うこともなかった。 「でさ、君の本心は伝えたの?」 「本心か?」 「そうそう。君を好きだから、婚約式をしたいって言ったのか?って聞いているの」  目をしばたたいた。私の顔を見たヨーゼフの目が据わる。 「………伝えてはない」 「……そうだと思ったよ」  ヨーゼフは芝居がかったしぐさで、肩を落とした。 「あーあ、じれったいたらないね。彼女の苦労が分かる気がする……」 「苦労?」 「伝えてないものはしょうがない。それはいい。でもさ、もし、このまま婚約解消なんてなったらどうするの? それでいいの?」 「………」 「婚約解消になったら、ロンダ嬢とはまるっきりの他人だよ? それでいいの?」 「………よくは……ない」 「彼女の微笑みも、優しさも、熱っぽく見つめる瞳も、自分には向けてくれないかもしれないんだよ? それでいいの?」 「よくは……ない」 「誰か他の男が、彼女の愛情を独占して、あの柔らかそうな唇に口づけするんだよ? それで――」 「よくはない」  他の男が彼女と口づけするなど、想像もしたくない。他の男が彼女に触れるなんて、許したくない。触れていいのは私だけ。私だけにしたい。 「ふふん。いいねー、アルファ君。嫉妬に狂った男の目をしているよ」  嫉妬? これが? こんな黒い感情が、彼女を食らい尽くしそうな感情が、嫉妬か? 「彼女と話すことだね。今の気持ちを」 「………」 「手放したくないのなら、本当に欲しいのなら、なりふり構わず奪うまでだよ。アルファ・アールズバーク」  本当に欲しいのなら。  再度、自分に問いかける。  彼女が欲しいか?  答えはすぐにでた。  私は彼女が欲しい。自分のものにしたい。誠心誠意、愛情を注ぎたい。そして、彼女の愛ももらい受けたい。なら、今、すべきことは? 「彼女と話してくる。私の気持ちを言葉で伝えたい」  そう言うと、ヨーゼフは満足そうに笑った。 「フラれたら骨は拾ってあげるから、ぶつかってらっしゃい」  ヨーゼフの言葉に少し笑ってしまった。  心の中にあった霧が晴れたようだ。結果がどうであれ、今は進む。そう思って彼女へ手紙を書き出した。  ────  ロンダへ  君と話がしたい。大事な話だ。だから、今度の休みに会いに行く。  君の好きなカーネーションの花束を持って会いに行く。  アルファ・アールズバークより  ────
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