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出会い編 私は二人の幸せを願う side ロンダ
私は最初からアルファ様と結婚する気など、さらさらなかった。
私には夢がある。
それは、いつか妹のミランダが冒険者から聞いた火をはく竜を見に行くこと。そして、竜の姿を絵に描いてミランダに見せること。それが、私の夢。
昔、ミランダと約束したのよ。
「ねぇ、ミランダ。火をはく竜ってほんとにいるのかしら? 私は信じられないなー」
「ふふっ。そうね。でも、私は信じたいわ。そんな不思議な生き物がいるなんて、信じた方が世界が素敵に見えるもの」
その時のミランダの顔が、私は忘れられない。キラキラとした瞳で話すミランダは、とてもキレイだった。
私もあんな風に無垢な瞳をしてみたい。そう思った私は、とっさに言ったのよ。
「私が見に行くわ!」
「え?」
「私が火をはく竜を見つける! そして、絵に描いてあげる! ほら、私、絵が得意だから! 描いたらミランダに見せてあげるわね!」
ミランダは体が丈夫ではない。竜を見に行くのは、難しいと思った。
いえ、ミランダのためだけじゃない。田舎で退屈して、どうしようもなかった私に一つの夢ができた。それが、とても嬉しかったの。
「素敵! ロンダが見に行ってくれたら嬉しいわ」
「うん。約束するわ。私、火をはく竜を見つける!」
幼い頃の約束。ミランダは忘れているかもしれないけど、私はその夢のためにお母様の指導も懸命にうけた。
だって、冒険するにはお金が必要でしょ? だから、王都に出て、仕事をしてお金が貯まったら、火をはく竜を探しにいくつもりだった。
私は辺境伯爵夫人になっている暇はないのよ。ふってわいたようなアルファ様との婚約話に焦った。
どうにか婚約破棄できないか。
考えているうちに、ミランダとの身代わりを思いついた。
二人がうまくいけば、ミランダの願いもかなえてあげられるかもしれない。
ミランダは本を読んでは、「こんな恋をしてみたいわね」と、こぼしていたから、恋をすることに憧れがあると思っていた。
体のことがあるから、諦めている風だったけど、姉としては妹の幸せを願いたいのよ。
あれこれ考える時間はなかった。
身代わりは、賭けだったの。
私は身代わりをするにあたり、ばあやに協力してもらうことにした。ばあやは私の夢を知っている。お母様には内緒というので前に話したことがあった。
「お願い、ばあや! 協力して!」
「しかし、奥様がなんというか……」
「お母様には内緒で。絶対、反対されるに決まっているから!」
「しかし……」
「辺境伯爵のご子息に会う明日だけでいいの! 私は熱を出すふりをするから、ミランダに代わりをするようにして!」
ばあやは困った顔をして、なかなか頷いてくれなかった。
「ミランダの恋をしたいって願いを叶えてあげたいの。私にも夢がある。その夢のために、今は結婚できない。だからお願い!」
「もし、ご子息とミランダ様がうまくいかなかったらどうなさいますか?」
「その時は私からお母様と、お父様にお話をする。結婚できないって、説得する! だから、お願い! 明日、明日だけでいいから!」
なんとかばあやを説得して、ミランダを身代わりに仕立てた。
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