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ミランダがアルファ様と出ていた後、ヨーゼフ様が私に話しかけてきた。
「ミランダちゃんは、お姉さん思いだね~」
「そう見えますか?」
「見える見える。あの鞄、何か入ってたんじゃない? 例えば、アルファ君への贈り物とか」
するどいわね。まぁ、アルファ様の仕事仲間で、かなり親しそうだし、言っても問題ないか。
「そうですよ。アルファ様への贈り物です。お花を頂いたお礼に今日、買ったものです」
朝から考えに考え抜いた贈り物だ。
アルファ様ならどんなものでも喜びそうだと思ったけど、ミランダは懸命に選んでいた。
あまり豪華なものでもなく、普段、さりげなく使えそうなもの。それでいて、ミランダの思いも込められているもの。アルファ様ならきっと喜ぶだろう。
うまくいく二人を想像して、自然と頬が緩んだ。
「ミランダちゃんは、お姉さんが好きなんだね~」
にこにこと変わらない笑顔でヨーゼフ様は言う。なんかトゲのあるように聞こえてムッとした。
「お姉さまには幸せになってもらいたいので」
「そっか~。アルファ君はいい奴だから、きっとお姉さんを大事にすると思うよ」
「……なんだか、さっきから、トゲのある言い方をしていません?」
「え? 俺が? まっさかぁ」
にこにこと変わらない笑顔でヨーゼフ様は続ける。
「俺ね。アルファ君から色々、君たちのことは聞いているんだ。病弱な妹さんがいるってことも、知っているよ」
ヨーゼフ様の琥珀の瞳が、すっと細くなった。
「でも、なぜだろうね? 俺には病弱な妹が、 今、出ていったロンダ嬢の方に見えるんだ」
「どうしてですか?」
「君の瞳は生命力に溢れている。そして、頭の回転も早い。俺が君たちの親だったら、君を婚約者にするなって思っただけ」
私は冷や汗がとまりませんでした。
まずい、まずいわ……
完全に読まれてしまっている。
ここまできて、私の計画をじゃまされるわけにはいかないのよ。この底が知れないヨーゼフ様の真意を確かめないと。
「もし、そうならどうしますの? アルファ様に言いますか?」
「え? そんなことしないよ」
意外な答えが返ってきた。驚いてヨーゼフ様を見つめると、ヨーゼフ様も私を見て驚いていた。
「アルファ君にも隠したいことなんでしょ? 俺は君を気に入っているし、なんなら協力したいとも思ってる。もちろん、アルファ君には内緒でね」
「なんでですか? 会ったばかりですのに……」
なんでそこまでしてくれるの?
うさんくさいことこの上ないわ。
「なぜねぇ、君を好きになっちゃったからって言ったら信じてくれる?」
「絶対、信じません」
ハッキリ告げると、ヨーゼフ様は笑いだす。
「いいね~、いいよ。ますます君のことが気に入った」
「それはどうも。その好意は今すぐ捨ててください。持っていても無駄ですので」
またハッキリ言うと、ヨーゼフ様は大声で笑い出した。なんなの? なにが、そんなに面白いの? 私はちっとも笑えないわよ。
「あー、笑った。ますます君に惚れたよ。君のためなら、いくらでも協力するし、愛の逃避行だってできるよ」
うさんくさくて、顔がひきつった。
出会ってすぐ好きだ、なんていう男は大抵、ロクな男ではない。
「逃避行は遠慮しますけど、協力してくださるならしてください。あの二人をうまくいかせたいの」
「いいよ。それは、喜んで協力しよう」
にこりと笑っていたヨーゼフ様が、おもむろに近づいてくる。そっと私の耳に囁き出した。
「他にしてほしいことがあれば言ってね。ハートYに会いたいと、ここの店主に言えばいいから」
「え?それは、どういう……っ!?!?」
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