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「どうも君は、いや、君たちは言葉が足りないように思える。相手を思う気持ちはあるのに、本心を伝えていない。それが事態をややこしくしているんだよ」
彼は手に持っていたコーヒーカップをテーブルに置いた。いつもの軽口ではなく、ゆっくり話だした。穏やかな笑顔だったけど、私を見る目が鋭くて、背筋が伸びた。
「ミランダ嬢はアルファ君のことが好きなのに、君に遠慮して、それを伝えてない。アルファ君はミランダ嬢が好きなのに、好きって伝えてない。どうせ、婚約式の話だって、母親が勧めてきた縁談だけど、自分が好きだから正式にしたいってだけなんだろう」
彼の指が私をさす。
「そして君は、ミランダ嬢が好きで二人がうまくいってほしいと思っているのに、伝えていない。相手を思っての行動って言えば聞こえがいいけど、俺から言わせたらただのお節介。いい迷惑」
指がおろされる。彼の発する声が冷ややかになった。
「君が今からやろうとしていることは、幼稚で、自分のことしか考えてない、身勝手なことだ」
冷や水を頭から被ったような衝撃があった。
――自分のことしか考えていない。
私、ちゃんとミランダのことを考えていたかしら。結婚したくなくて、逃げ回っていただけじゃないのかな。知り合ったばかりのこの人も巻き込んで。
……最悪だ。私、子供だわ。
落ち込んでうつむいていると、彼が手を伸ばして、ポンポンと頭を撫でる。それが意外なほど優しくて、目頭が熱くなった。
「……子供扱いしないでください」
「ははっ。涙目で睨んでも可愛いだけだよ」
それにかっと頬が熱くなり、眉がつり上がった。彼はにこにこと相変わらず笑っていた。それを見ていると、毒気が抜かれちゃった。
「……逃げることはやめにします。家族と話し合います」
「うん。それがいいと思うよ」
いい子、いい子と撫でられて、こそばゆい。
「……その……ごめんなさい」
「え?」
「私の浅はかな考えで、あなたを巻き込むところでした。ごめんなさい。あと……」
私はちらっと彼を上目遣いで見た。
「叱ってくれて、ありがとうございます」
頭を下げた。顔をあげると、彼は脱力して、テーブルに突っ伏していた。
え? なになに?
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