61人が本棚に入れています
本棚に追加
辺境伯爵家は、古城でした。
敷地は広く、見渡すかぎり緑の平原が広がっていて、とても静かです。
扉を開いてすぐの玄関ホールも広く、かつては兵士たちの診療所として使われていたそうです。
古いながらも掃除が行き渡っていて、そこに住む人たちの丁寧な暮らしぶりが伺えました。
アルファ様が生まれ暮らしている場所。
私は観光地でも来たみたいにほうと息を吐いてしまいました。
執事の方に案内されて、ひときわ大きなサロンスペースに通さました。出迎えてくれたのは辺境伯爵夫人です。アルファ様はいませんでした。初めて会ったときと同じく、穏やかな笑みを浮かべていました。
「遠いところをようこそいらっしゃいました」
「お招き頂きありがとうございます」
お母様が一歩前に出て、深く頭を下げます。私とロンダもそろって、頭をさげます。お母様は頭を下げたまま、話だしました。
「この度は誠に申し訳ありませんでした。婚約破棄をされても何もいえない身ですのに、このように話す機会を与えてくださり感謝しております」
「まぁまぁ、そんな堅苦しくなさらないで、カリム男爵夫人。さぁ、座ってください」
私たちは夫人に促されるままソファに腰かけました。夫人が目で合図を送ると、執事の方がお茶を運んできてくれました。
「さぁ、お茶をどうぞ。私の大好きなミルクティですのよ。温かいうちに召し上がって」
ちらりとお母様を見るとうなずかれました。私はティーカップを持ちました。カップを持ち上げただけで、茶葉の豊かな香りがただよいました。香りに誘われるがままお茶を口に含むと、砂糖の甘味と、茶葉のほろ苦さが絶妙にまじりあって口に広がります。
「「おいしいです」」
一言呟くと、ロンダと私の声が重なりました。
「まっ、ふふ。さすが双子だわ。息がぴったり」
私は気恥ずかしくなってしまって、首をすくめて、いそいそとカップをソーサに置きました。夫人はくすくす笑いながら、私たちを交互に見ました。
「どちらがロンダ様かしら?」
「私です」
「そう、あなたが。お手紙、読ませて頂きましたよ」
その言葉に、緊張感が走ります。
「とても誠意のある言葉で綴られていました。そして、とても妹さんとアルファのことを案じているのが分かりました」
穏やかな声が続きます。
「手紙を見て、アルファ自身に尋ねた結果、私たちは、ロンダ様とアルファの婚約解消することに決めました。そして、ミランダ様とアルファの婚約を申し込みたいと思っています。いかがでしょうか?」
夫人の言葉に涙がこぼれました。ロンダもお母様も目頭が熱くなってます。
最初のコメントを投稿しよう!