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「いい婚約式でしたわね」
「本当に」
家族に見守られて行った婚約式はおごそかな雰囲気で行われました。そして、式が終わった私達はお食事会をするため、その足で歩いているところです。
先頭はお母様方、そのすぐ後ろをお父様方が歩いています。
アルファ様のお父様に初めてお会いしましたが、アルファ様にそっくりでとても驚きました。
年を重ねたアルファ様に出会えたようで、思わず微笑んでしまいました。
「本当によかったわ。次は結婚式ね。ねぇ、結婚式は、いつにしましょうか?」
伯爵夫人の言葉に私達の足が止まります。
もう、結婚式ですか?
今、婚約式をしたばっかりですのに。
おろおろしだす私をよそに、お母様方の話は盛り上がってきます。
「そうですね……一年後とかでしょうか?」
一年後……
「あら、もっと早くてもいいんじゃないですか? 半年後とか」
は、半年後……?
「では衣装の用意をしなくてはいけませんね」
「ぜひ私にも衣装選びに参加させてください。きっとミランダさんなら、真っ白なドレスが似合いますわ。針子は任せておいて。とても腕のいい方を知っているのよ」
「ありがとうございます。ミランダはオレンジが好きなので、晩餐会にはオレンジ色のドレスでもいいのかもしれません」
「まぁ、素敵! きっと、ミランダさんに似合いますわ! ね、アルファもそう思うでしょ?」
不意に話をふられたアルファ様は少し考えた後、口を開きました。
「彼女ならその色が似合うと思う」
「そうよね!」
「ただ……」
「なぁに?」
「婚約式も終わったばかりです。今後のこともありますし、もう少し落ち着いたらまた結婚式の話をしてもいいですか」
アルファ様が私の方を向きます。黒い目が優しく細くなりました。
「彼女の体を第一に考えましょう。あまり根をつめて、体を壊してはいけないですから」
お心遣いに胸がきゅんと高鳴ります。
「ふふっ。そうね。でも、ドレスは一緒に選びましょうね! ね、ミランダさん」
「はい。嬉しいです」
夫人に笑いかけると、満足げにうなずかれました。
結婚式。
そしたら私は、アルファ様の奥様になるのね。
わ。頬が赤くなってきた。すごく恥ずかしくて、でも嬉しくて、ふわふわした気持ちだわ。
「ミランダ」
熱くなった頬に手をあてて冷ましていると、アルファ様が話しかけてきました。
「落ち着いたらと言ったが、そう遠くない未来にしたい」
真摯な眼差しに射ぬかれます。
「近いうちに必ず、君をミランダ・アールズバーグにしたい」
その言葉に心臓がドキンと跳ねました。ありったけの思いを込めて、私は笑いかけます。
「はい、喜んで!」
アルファ様が微笑みながら手を差し出します。その手に自分の手をのせると、しっかりと握られました。
共に手をとり歩み出した私達の指には、婚約式で交わした指輪が光っておりました。
出会い編end
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