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屋敷に戻ると、辺境伯爵夫人と、お母様が待っていました。夫人は私達の様子をみて大変満足したようで、足取り軽く帰りの馬車に乗り込んでいきました。
「じゃあ……また」
「はい。また……」
馬車に乗り込むときにアルファ様が声をかけてくれました。夢のような時間が終わってしまい、切なさで胸がきゅんとします。
馬車が見えなくなるまで私は手をふり、見送りました。
やっと馬車が見えなくなると、大きく息を吸います。
「「ふぅ~~……」」
重なったため息に驚いて、横にいるお母様を見ます。お母様は、苦虫を噛み潰したような顔をしています。
「疲れました。お夕飯にしましょう」
また驚いてしまいました。お母様が疲れるなんて聞いたことがありません。鉄仮面みたいに表情を変えないお母様の人間らしい一面を見れて、思わず笑ってしまいます。
「どうしたの?」
「ごめんなさい。お母様でも疲れることがあるんだなと、思って」
「……疲れますよ。相手は辺境伯爵夫人ですよ。粗相があったら、旦那様に申し訳がないでしょう」
またも驚きです。普段、お母様は、お父様のことをノロマだの、グズだの、ひどい言い様でしたので。またも、お母様の新しい一面を見れて笑ってしまいます。
「なんですか?」
「いえ……ふふふっ」
「……ともかく、むこうも満足されていたようですね。ミランダ、よくやりましたね」
思わぬ褒め言葉に笑いがとまります。いつ以来でしょう。お母様に褒められるなんて。なんだか、くすぐったいわ。
今日はとてもいい日だったわね。
「これで、ロンダの婚約話も進むでしょう」
お母様の一言に足がとまります。
「良い縁談に恵まれてよかったわ」
そうでした。
アルファ様はロンダの婚約者。
私ったら、何を浮かれていたのでしょう。
私は身代わり。
たった一日の婚約者なのに。
名前すら覚えられていないじゃない。
「ミランダ?」
足を止めた私にお母様が声をかけます。私は顔を上げ笑顔を張り付けました。
「なんでもないわ、お母様」
私はロンダの代わり。
だから、これからは、二人が幸せになるように見守りましょう。
そっと、そっと。
胸の痛みはしまいこんでしまうのよ。
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