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次に目を覚ましたとき、視界に入ってきたのは号泣したお父様の顔でした。
「ミランダアアア!」
「……おとう、さま?」
「三日も寝込んでいるって、聞いたから心配したよぉ!」
お父様に抱きつかれながら私は、ぱちくりと瞬きをします。三日? 私ったら、三日も寝込んでいたの?
ぽかんとしていると、お父様の背後にぬっと動く影が見えました。その影は勢いよく手を伸ばしたかと思うと、お父様の頭をぐわしっ!と掴んで私から無理やり引きはがそうとします。お父様の首があらぬ方向へ曲がりかけています。痛そう。
「旦那様、どいてくれますか?」
冷たすぎるお母様の声に私はうろたえますが、お父様はへらへらと笑っています。
「痛いよ、カーリー」
「ミランダの熱を測りたいのに、旦那様がどかないからです」
「だって! せっかく、ミランダが目を覚ましたんだよ! 僕だって、ミランダに触りたい!」
「子供みたいなことをおっしゃらないでください! だいたいなんですか、僕って! そんなキャラではないでしょう!」
「え? 銀髪の中年が僕って言ったら、モテるかと思って」
キメ顔をされたお父様に、お母様は額に青筋を立てました。
「いいから、どきなさい! この勘違い中年!」
「いやん! 痛い!」
「はぁ……ミランダ。具合はどう?」
「はい……大丈夫です」
「見せてみて……そうね、熱は下がったわね。よかった」
「心配をおかけしました」
「そんなことはいいんだよ、ミランダアア!」
あ、お父様が復活しました。
「縁談を身代わりしたんだって? それは疲れるよ! えらいね、ミランダは。さすが僕の自慢の娘!」
「なに言ってらっしゃるの! だいたい、旦那様が持ってきた縁談でしょう!」
「だってぇ~、伯爵夫人に、涙ながらに半日も説得されたんだよ? 女性に泣かれたら助けたくなるじゃない?」
「人助けで、娘を嫁がせるバカがどこにいるっていうんですか!」
「え? ここに?」
「………………」
あ、まずいです。お母様の顔が悪鬼のようになっています。
「マリア、このゴミを縛って捨てておきなさい」
「かしこまりました」
「きゃー! 暴力反対!」
あれよあれよという間に、ばあやによって、お父様は縛られていきます。あ、す巻きにされて、ドアの外に、お父様が転がっていきました。大丈夫かしら……
「まったく。ミランダ、熱は下がったといっても、病み上がりなのですから、横になってなさい。食欲はある?」
「少しなら」
「なら、スープを持ってきます」
お母様とばあやは部屋を出ていきました。
私も一つだけ息をはいて、窓の外を見つめます。アルファ様と会ったときのような青空がそこにはありました。
手紙……届いたかしら。
読んでくださったかしら。
この空の下にアルファ様がいる。それだけで、晴天がなんだか特別なもののような気がします。
ボーッと外を見ていると、ドアがノックされました。
「ミランダ、スープを持ってきたわ」
「ロンダ、ありがとう」
「あと、これも」
ニヤリと笑ったロンダが見せてくれたのは一通の手紙でした。まさか……え?
「アルファ様からの返事よ。悪いけど、先に読ませてもらったわ」
ロンダから手紙を渡されます。アールズバーク辺境伯爵の家紋入りの封筒。差出人の名前には、アルファ様の名前があります。あらやだ……また熱が上がってきたみたい。頬がかっかします。
「……読んでもいいの?」
「もちろん。ミランダが書いた手紙の返事なんだから」
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