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まるで別人が乗り移ったかのように、朗々と、目をぎらぎらさせながら語り続ける。
「表皮を剥がれ、おびただしい量の血を流しながらも銀狐は生きた。生きていた。それは神様が可哀そうに思って不死の力を与えたからだ。死ねたらどれだけ楽だったろう、死ぬことができないまま皮膚が剥がれていく痛みを味わい続けた。気絶することも許されなかった。それに気づいた金狐はすかさず猟師に飛びかかって喉元を食いちぎると弟を背負って外に出た。和豆良比能宇斯能神に頼んで弟を治してもらおうとしていたが外は吹雪だ。なにもみえない。肉だけになって痛い寒いと泣き続ける弟に、やさしい金狐は自らの皮を自らの歯で無理やり剥ぎとってかけてやったんだ。雪の絨毯が真っ赤に染まるほどの重傷を負いながらも、金狐もやはり生きていた」
語り手である瑞木の声はぶるぶると震えていた。
「金狐は神様に人間の非道さを訴えた。一部始終を見ていた神様は自らの子どもたちを哀れみ、穢れた世界を美しく仕立て直すようにと金狐に許可を与えて姿を消した。肉だけになった金狐は、今度は自分がまとう〈皮〉を手に入れるべく人間たちの住む里へと降りていき……やがて『金主』様と呼ばれるようなる。めでたしめでたし」
瑞木の体ががくんと傾いた。とっさに受け止めてやるとしばらくして顔を上げる。血走った目が晶に焦点を合わせた。
「悪い子はワタになって神様に食べられちゃうの。だけど瑞木のおにいちゃんはなにも悪くない。だからお願いしたの、一所懸命にお手伝いするから、いつかおにいちゃんを返してくださいって」
「返して? そんなの無理だろう」
「ううん。無理じゃない」
瑞木がスッと人差し指を立てた。
「その葛籠には神様が『食べ残した』おにいちゃんが入っているの。脳みそが少しと心臓がひと欠片、あばら骨が八本。でも全然足りないから瑞木はお仕事しながら必要な部分を集めているんだよ。ね、おにいちゃん?」
ガタッ!
葛籠が動いたような気がした。いや、動いている。ガタガタと内側から。
これではまるで皮をはぎ取られながらも死ねなかった狐みたいじゃないか。
「おにいちゃん起きたの?」
瑞木は歓声を上げながら駆け寄っていく。晶に背を向けたまま葛籠の蓋をわずかに開けて「わぁ」と息を漏らす。
「おはよう。どうしたの、今日はとっても元気なんだね。え、お客さんだよ。あっくん。――え? 欲しいの? しょうがないなぁ」
そっと蓋を閉めた瑞木が右手を差し入れたのは例のリュックだ。ごそごそと探ってから鋭くとがった錐(きり)と金づちを取り出す。柄は返り血で赤黒く染まっており、元の色を失っている。
「あっくん、ちょっとでいいからお肉ちょうだい。だいじょうぶ、瑞木削るのうまいよ、痛くないから、ね、ちょっとだけ」
じりじりと迫ってくる。
錐を一体どうしようというのか。どこに突き立てるつもりなのか。
晶はじりじりと後ずさった。あっという間に追い詰められて逃げ場を失った。だが幸いにして相手は子どもだ。隙をみて逃げることができる、はずだ。
この窓を蹴破れば外へ。

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