寂しがりやの織姫

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ここ数年、七夕はいつも雨が降っている。 七月七日なんて梅雨の真っ最中だし、それはもう 私の力じゃどうしようもないんだけど、七夕に雨が降ると悲しくなってしまう。 だってほら、織姫は彦星に会えなくなってしまうんでしょ? 一年にたった一度しか会えないのに。 遠距離恋愛半年の初心者の私ですら、考えただけで吐き気がするほど辛くなる。 「何見てんの?」 「天の川。」 「雨だから見えないじゃん。」 一人で空を見上げていたはずのベランダに彼が やって来る。 ロマンチックの欠片もない彼は、いつものように 煙草に火を点けた。 雨の匂いと煙草の匂いが混ざり合って、溶けて いく。 「私には見えるもん。」 「ははっ。何それ。」 「心が汚い人には見えないんですー。」 そんな私の悪態になんて彼は動じない。 ククッと喉の奥で笑いながら、煙草をふかせてる その姿は悔しいけど格好いい。 未だに空を見上げる私の隣に並んで彼は言った。 「寂しいなら寂しいって言えばいいのに。」 私はどうも素直になるのが苦手だ。 特に彼の前では。 明日の朝にはまた離れ離れになってしまう。 織姫と彦星みたいに一年に一度しか会えないわけじゃない。 でも、すぐに会えるわけでもない。 だからすごく…寂しい。
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