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台所に立って、お湯を沸かしていると、またチャイムが鳴る。
今度も「お届けもの」だった。
ただし、届けにきたのは……。
「よお」
ビールが入ったビニール袋を持った颯太が立っていた。
昨日の今日で、正直気まずいと思った。
「そうやって、団子って作るのか」
ボウルの中の団子の生地をこねている私を、颯太が興味津々に見ている。
私は作業に集中したかったので、あえて無視。
ソファにでも座ってりゃいいのに……と思いながら、醤油と砂糖とみりんで団子のタレを作り始める。
火加減が重要なので、じっと鍋を見つめながら木べらで混ぜる。
すると、颯太が、私の背後から覗き込んでくる。
「さっきから、うろちょろと何してるのよ」
私が聞くと
「いや……何でもない」
と、颯太が答える。
何でもないなら、どうして私の近くにいるんだろう……。
「暇だったら手伝って」
私は、1回火を止めて、生地が入ったボウルを颯太に渡す。
「え?」
「暇でしょ」
「だからって、ボウルだけ渡されてもやり方わかんないよ」
「あーもう、分かった、見て」
私は、手のひらに500円サイズの大きさにした生地を乗せて、くるくる丸めて皿におく。
「はい、これと同じことして」
「意外と簡単だな」
と言いながら、颯太も団子を丸め始める。
「あ、あれ?うまく形が作れない?」
「簡単だっていうから、バチが当たったのよ」
私はまたコンロに火をつけて、タレ作りを再開する。
颯太が作っている団子は、1個作るごとにゆがみがなくなり、どんどん綺麗な球体になっていく。
「なあ」
颯太が口を開く
「体調は?もう大丈夫なのか?」
「そんなこと気にするくらいなら、仕事真面目にすれば」
「電話、繋がらないんだから、来るしかないだろ」
「答えになってないし」
一瞬、お互い無言になる。
私だって、本当はこんなことを言いたいわけじゃない。
何もかもうまくいかないことに、イライラして、八つ当たりして、そのあげくに醜態晒して……。
私は気まずかった。
早く、鍋の中のタレを完成させて、この場から立ち去りたい。
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