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「やっぱり頼りになるよ」
お昼の弁当を食べながら大樹が言った。勇介も一緒にいて、弁当をぱくついてるけれど、生まれてからずっと彼女がいないので、あまり男女の事には関心を示さない。というか、関心はあるのだろうけれど、積極的に関わってこようとはしない。
「もう済んだ話だからいいよ」
「でも、まだわからないことがある。俺が三年生の誰かといちゃついていたというのは野牧の作り話だったけど、沢口が誰かといちゃついていたというのは、野牧の作り話じゃないだろ?」
「ああ、それね。それは事実だよ」
「えっ?」
大樹は手にしていた箸を落としそうになった。
「まあ、イチャイチャはしていなかっと思うけれど」
「どういうこと?」
「沢口が浮気をしているかもしれないとお前が俺に相談をした一週間前に、沢口からも同じような相談を受けた」
「それは知ってる」
「その時は、図書館に呼び出された。沢口は俺を見つけると、嬉しそうに手を振った。そして人気のないところに行くと、真剣な表情になってお前のことを話し出した。話しているうちに沢口は感情が高ぶってきて、今にも泣き出しそうになったんで、これはいかん、何とか元気づけなきゃって俺は思った」
「うん」
「そんな俺たちの様子を、事情の知らない外部の人間が見たらどう思うと思う?」
「内山!」
昼飯を食べ終えて弁当箱を仕舞っている時に名前を呼ばれた。
教室の入り口に立つ同級生の男が、僕を見て首を振った。こっちに来いという合図らしい。
廊下に優菜の友達の岩崎がいた。
「どうしたの?」
「ちょっと来てください。優菜が大変なんです」
「優菜が?」
そう言ったときには、すでに岩崎は廊下を歩き出している。
「優菜がどうしたって?」
階段をスタスタと降りていく岩崎の背中に向かって、もう一度僕は尋ねた。
「私もクラスが違うのでよくわからないんですけど、教室の前で優菜が男の子たちに囲まれて、付き合っているのは誰だか教えろ、嫌です、なんていう押し問答をしているのが聞こえてきたので」
それで咄嗟に僕を呼びに来たのか。さすが岩崎。
なんて感心してる場合じゃない。
僕は覚悟を決めた。
一年の教室が並ぶ廊下に、大きな人だまりがあった。思ったよりも多くの人がいて驚いた。
「あそこ?」
僕の問いかけに岩崎が頷く。
僕は生徒たちが作る大きな輪の外側に加わった。
輪の中心に優菜ともう一人の女の子、それに体格のいい男がいる。
「俺は鈴木が嘘を言ってるのなら納得ができない。本当に付き合ってるヤツがいるのなら、名前を言ってみろ。もし付き合ってるヤツがいるってことが本当なら、俺はもう何も言わない。何度もそう言ってるだろ」
男は強い調子で、説得するように優菜に話しをしている。
「言えない」
優菜は震える声で答えた。隣にいるのは優菜の友達なのだろうか。その子に寄り添うようにしている。
「いい加減にしろよ」
男は優菜に言った。そして遠巻きに周りを取り囲む生徒たちを見た。
「お前ら、見世物じゃねえ、あっちに行け」
男は興奮したように周りの生徒に言った。
「ちょっとごめん」
僕は野次馬をかき分けて、輪の中心へ歩いていった。
優菜が怯えた目で僕を見る。
「おいで、優菜」
僕は優しく言った。
優菜が来て、僕の腕を掴む。
大勢の人間が僕たちを見ている。
「優菜が好きなのは俺だ。今までこそこそと付き合ってきたけれど、これからは堂々と付き合っていくから」
僕はそう言って、優菜と話をしていた男を見た。そして周りの野次馬たちを見る。
「さあ、もう終わり。教室に戻った戻った」
そう言いながら僕たちのところに来たのは大樹と勇介だった。
「凄いよ内山。格好よかった。僕じゃとてもあんなことできないよ」
興奮したように話すのは勇介だ。
授業が終わって、僕たちは教室で話しをしていた。
「それじゃ、去年の秋に駅前で見かけた子って、優花の妹だったのか?」
「うん、そう。偶然にも」
「お前、優花と付き合っていながら、妹の顔さえも知らなかったのか? さすがだよ」
「そんなもんだろ、普通。じゃ、お前は沢口の兄弟の顔を知ってるのかよ」
「いや、知らない」
「それ見ろ。おっと、今日は優菜と一緒に帰るんだった。お先に」
「チェ、もう一緒に帰ってやんねー」
大樹がすねたように言った。
校門の近くに優菜が立っている。優花も一緒だ。
僕たちは三人で駅へと歩いた。三人でいると優花のことが、まるで優菜の保護者のように思えた。
僕たちはこの先どうなっていくのだろうかと、少し不安になった。
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