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秋になった。
公園の木も黄色く、あるいは赤く紅葉している。早くも枯れて地面に落ちた木の葉が風に吹かれて、軽い乾いた音を立てて転がっていく。
僕は優菜と会うのはこれで最後になるかもしれないという予感を抱いていた。
優菜は赤いセーターを着てやってきた。肩から流れる髪が赤色の上で揺れている。
僕たちは公園の隅にあるベンチに座った。
僕と優菜は順調に交際を重ねてきたはずだ。あの大勢の前での交際宣言があったのだから、誰も僕たちのことを邪魔しようとするヤツはいなかった。
僕たちの仲は学校中の評判になった。
それから僕たちは堂々と二人でいられるようになった。
だけど、堂々としていようとすればするほど、そのことが窮屈に感じられるようになっていった。人の目を避けて、二人でこそこそと逃げ回るようにしていた時のほうが、よっぽど自然体でいられた。なぜだかよくわからなかったけれど、人の目を意識して堂々としていようと考えたり、逆に人の目なんて気にしないでいようとすることが、かえって人の目を意識することになったりした。変な気分だった。
優菜もそんなプレッシャーを感じているようだった。
街を僕らのような高校生が歩いているのを見かける。二人は手を繋いで楽しそうだ。まるでそんな姿を大人に見られるのを楽しんでいるかのように。
でも僕と優菜は違う。特に優菜は。
みんなの前での交際宣言から、優菜は時々、無理矢理の笑顔を僕に見せるようになった。本心を隠すかのような笑顔。
その無理矢理の笑顔が増えていくたびに、僕の心にもそんな無理矢理の笑顔から優菜を開放してやりたいという思いが募っていった。
もう、あの付き合い始めたばかりのころのような自然体でいられることはできないのだろうか。
でも僕は受験勉強に明け暮れる日々だったから、そんなことに多くの気を取られていることもなかった。
だけど優菜はどうなのだろう。
その答えが今、この秋の色に染まった公園で出されると思った。
「ごめんなさい。勉強で忙しいんでしょ?」
「いや、いつも言ってるけど、たまには息抜きも必要だからね」
「私達、もう会わないほうがいいと思う」
さらりと優菜は言った。
僕は何も言えずに、なんて返事をすればいいのかだけを考えた。
優菜も返事を待つ風でもなく、ただじっと黙っている。
僕たちは身動きもせず、ずっと黙ったままベンチに座り続けた。
「ごめんなさい」
優菜が僕を見て言った。
「謝ることないよ。僕のほうから言うべきことだったと思う」
「そんなことないよ。私、颯太さんが大学に受かることを祈ってる」
「それより自分のことを頑張れよ」
「うん」
「それじゃ、さよならだ」
僕は立ち上がった。
優菜も立ち上がる。
優菜が僕の手を握った。
優菜が僕の目をじっと見つめる。
僕はそっとその唇にキスをした。
閉じた優菜の目から涙がこぼれ落ちた。
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