いつか君に巡り逢える

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 僕は第一志望の大学に合格した。受かるかどうか、微妙なところだったから、死に物狂いで勉強した甲斐があったというものだ。  兄貴は家から通えるのに、わざわざ家を出て一人暮らしをしている。僕は少しばかり遠かったけれど、やっぱり家に居た方が気楽なので、家から大学に通った。  そんな兄貴がいつものように突然、家にやってきた。それも同じ大学の新入生を連れてだ。僕はびっくりした。最初、誰だかわからなかったくらいだ。普通の人以上に、少なくとも僕よりはよっぽどパリッとした服装で兄貴の後から入ってきたのは田中竜彦だった。 「大学の将棋部に入ったから何局か指した。高校の後輩でもあるし、俺のアパートで一杯飲もうって話をしてたんだけど、お前の友達だっていうから、それじゃお前も一緒に家で飲もうってことになった」 「でも、俺たちまだ未成年だぜ」 「うん。だから無理には勧めない。田中はきっと先輩の酒は断れないと思うけど」 「え? は、はい、もちろんです」  うわ、田中の奴、緊張してやがる。 「お前だってさ、二十歳になっていきなりドカーンと酒飲まされて壊れるより、少しくらい酒の飲み方を知っておいた方がいいと思うぞ」  実は今までもちょくちょく兄貴の相手を務めさせられている。いつも兄貴の飲む量の百分の一くらいしか飲んでないけれど。  そんなわけで、僕も田中も生まれてこの方、飲んだことのないほどの酒を飲んだ。(と言っても兄貴の足元にも及ばない量だけど)  そのうちに親父が帰ってきて仲間に加わり、その日はどんちゃん騒ぎとなった。  田中はきっと高校でも優花と同じクラスになってしまったために、優花に対する色々な束縛から逃れられずに、本当の自分じゃない自分を曝け出すようにして何とか日々の生活をやりくりしていたのだろう。  大学に入って優花への色々な思いから解放されて、田中は本来の自分に戻ったんだ。  その優花といえば、やっぱり目指す大学に合格して家から通っている。それほど連絡を取り合っているわけじゃないから、今、どのような生活をしていて、どのようなキャンパスライフを過ごしているのか、さっぱりわからない。  勇介も地方にある第一志望の大学に入って、遠くに行ってしまった。もともと好きで入った工学部だけど、全然女の子の数が少なくて、まだまだ彼女はできそうにない。ただ、部活にも入って好きな機械いじりが思う存分できそうだから、そのほうがいいやと言っている。  大樹も希望していた大学に入学することができた。沢口との関係は相変わらず続いている。少しは二人の仲も進展したのかな? 詳しいことは一切話さないので、これまたさっぱりわからない。ただ、沢口の周りのことは教えてくれて、野牧や小川とも相変わらず仲良しでいるとのことだ。例の件があってから、本心で話ができるようになり、かえって絆が深まったらしい。  そして僕はといえば、大学に入ってまた一人の女の子に夢中になった。ショートカットが似合うとびきりのかわい子ちゃんだ。  今日はその子とデート。  待ち合わせの場所に現れた彼女は、大きく手を振ってやってきた。  僕は照れくさくて、片手を軽く挙げて応えただけだった。 「ごめーん、ちょっと遅れちゃった?」  そう言いながら、彼女がびっくりするくらいの可愛い笑顔で僕の顔を覗き込む。 「いや、俺が早く来すぎたからね」  そう言うと、僕は彼女と手を繋いで歩いた。  小さくて柔らかくて、暖かい手。  髪を切った優菜は少し大人びて、それでも最高に可愛かった。                                                        終わり
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