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「愛だね!」
帰宅後に定期開催される『本日の楠くん報告』に、佳良はうっとりとした面持ちで溜息をついた。白い頬を上気させ、大きな瞳を潤ませた様は、姉の目にも麗しい。
「愛かなあ」
「愛だよ、愛! ……姉ちゃんは嬉しくないの? 高校生の男子が人前でそんなん言えないよ? フツウ」
百合香の部屋で無遠慮に寝転ぶ佳良は、夢見心地で呟いた。「なんなら、かわってあげたいよ。いいなー。楠先輩が彼氏だなんてさ。男の中の男、じゃん。長身でガタイもいいし、しかも、成績優秀、品行方正……完璧!!」
「たしかに、並んで歩いていると、自然と道が開けるわね。楠くん、威圧感がハンパないし。身長、どのくらいだろ?」
「188cm、80kg! ……付き合ってるなら、そのくらい知っとけよ。それに、先輩は一見、強面だけど、よく見るとイケメンなんだぞ」
身を起こした佳良は、勉強机に向かう百合香の前に、携帯電話をずいっと突きつけてきた。
映っているのは、百合香を乙女だと力強く認定してくれた相手に間違いない。部活動の写真だろうか。サッカーボールを手に、真剣な眼差しでピッチを見つめている。
「カッコいいなあ。男の俺でも惚れるね」
「ストーカー野郎。隠し撮りとかやめろ」
「残念でした。俺は公認なの。きちんとサッカー部にも、楠先輩にも許可は得てまーす。なんてったって、写真部だもんね」
「あれ? 楠くん、部活は引退したんじゃないの? 体が鈍るとかなんとか言ってた気が……」
携帯を取り戻した佳良が、得意そうな顔を向ける。ふん、と、鼻を鳴らす様は小憎らしいが、見惚れるほど綺麗だ。キュッと締まった小顔に、黒目がちの大きな瞳、すっきりと通った鼻筋……二歳下、高一の弟が、姉より美人などとは許しがたい。
「姉ちゃん、なんにも知らないんだな。ウチのサッカー部はキーパーが課題でね、楠先輩はいまでも時々、指導に来てくれるんだ。三年で受験もあるってのに、嫌な顔一つ見せず……」
感極まり、閉眼して拳を固める佳良は、姉の百合香よりも、よほど楠に詳しい。同じ男子校に通っているとはいえ、彼の「楠先輩愛」は度を越している。
「「楠先輩こそ、俺の理想とする男だ!!」」
一字一句間違わずに輪唱した姉に、佳良はギロリと視線を向けた。「聞き飽きたわよ、アンタの決まり文句」……背を向けて言い放つと、後ろで大仰な溜息が返された。
「姉ちゃん、相変わらずクールだなぁ。俺は二人のキューピッドとして心配だよ!」
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