言の葉の備忘録

進め

「昔は良かった」

そんな言葉を耳にした。

確かにそうだ。

昔、と言うほど昔の話では無いはずだけれど、過ぎ去った季節はあまりにも遠く感じる。

自由に息ができていたあの瞬間。

歯を見せて笑い合えたあの時。

何にも縛られず、何処へだって行けたあの日。

どんな夢だって叶えられると信じて疑わなかったあの世界。

今ではもう、あまりにも遠い思い出だ。

「戻りたい」

誰だってそう思っている。

自由だったあの頃に。

何も気にせず、ただ自分のために生きられたあの時に。

でも、ダメなんだ。

私たちはもう、戻れない。

未来を知ってしまったから、歩き始めてしまったから、もう過去には戻れない。

歴史は繰り返す。だけれどそれは、過去に戻ることじゃない。

私たちは進むしかない。

誰も知らない真っ暗な未来に向かって、ただ進むしかないんだ。

「あの日」に戻れる日なんて、どんなに夢見てももう来ない。

だから、私たちはもう一度、未来に「あの日」を作り出す。

それができると信じて進む。それだけだ。