思ひ出

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思ひ出

『忘れじの 行く末までは かたければ 今日を限りの 命ともがな』 人は忘却する生き物だ。 それは、どんなに忘れまいとしても、本人の意志とは関係なしに起こる生理現象。 どうせ、みんな、忘れてしまう。 楽しかった記憶は朧げになり、ただ苦痛の記憶を残すのみ。 中途半端な忘却は、却って人を苦しめる。 ならばいっそ、美しい記憶を持ったまま、今日で全てを終わらせてしまおうか。 今日が最後であるならば、或いは美しい記憶も、永遠となるのではないだろうか。 私の淡い期待は、きっと裏切られるだろう。 たとえ私が永遠となれども、あなたは私を忘れてしまう。 けれども私は、思い出を美しいままにしておきたいのだ。 『あなたの絶対に忘れないという約束も、ずっと先まで信じられはしないでしょう。 それならばいっそ、今日の幸せな記憶を最後に、命を絶ってしまいたいものです。』
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