0人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
『私』は『アリス』
「アリス」と誰かが私を呼んだ。
そう、確かに私のことを「アリス」と呼んだのだ。
そうだ、私はアリス。
そこらじゅうにいるありふれたトランプ兵なんかとは違う。
気の狂った帽子屋でも、呑気なチェシャ猫でも、慌ただしい白うさぎでもない。
私は、アリス。
ハートの女王を恐れへりくだるこの世界の住人とは違う。
私はアリス。
トランプ兵も、ハートの女王も怖くなどない。
まったく、さっきまであんなにも恐れていたのが嘘のようだ。
もう怖くない。
だって私はアリスなのだから。
アリスを、私を追っているトランプ兵が可哀想だ。
きっと今頃女王様にギロチンにかけられているにちがいない。
だってアリスはここにいるのだもの。
ああ、なんて可哀想なトランプ兵。
でも、仕方がないわよね。
さあ、帰ろう。お姉様が心配するわ。
ところで私はさっきもアリスだったかしら。
なんて、言ったところで誰もわからないわ。
だってどう見ても、私はずーっとアリスでしょう?
ここは不思議の国。
何が起こっても不思議じゃないと思わない?
最初のコメントを投稿しよう!