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1.蛍
「……どうしたんだそれ?」
視線の先には、歳のわりには厳つい顔面をした男と、そいつに手を繋がれた小汚い子供がひとり。〝それ〟というのは言わずもがな後者を指す。どうしたんだと問いかけながらも、俺はまさかな……と思いつつ、薄々嫌な予感がしていた。
俺の追及するような、半ば呆れたような視線に対し、男はアハハなんてわざとらしく笑いながら、「拾ったんだ」と言ってのけた。
いやいや。拾ったんだ、じゃねえだろ。
俺は思わず深い溜息を吐き出した。
犬だの猫だの怪我した鳥だの、昔っから拾い癖のある人だったが、それにしても人間の子供はないだろ。それも、こんな小汚いーーどう見ても訳ありなガキだ。年の頃はおそらく七つ八つくらいだろう。性別は、こんな身なりでは判別がつかない。
「勝っちゃんよ、そりゃ流石に荷が重いだろ。元いた場所に返して来い」
「いやぁ、放っておけんだろ。訊けば家族がいないらしいじゃないか。見たところ腹も空かせてるだろうし、泥も落としてやりたいし。手っ取り早いと思ってとりあえず家に連れ帰ることにした」
「な?」と勝っちゃんがニカッと笑って子供に投げかけるが、子供はちらと見上げただけで、そのまま応えることなく俯いてしまう。ぼさぼさの頭で顔が見えにくいが、表情がまるきり死んでいる。
ふと、その子供らしからぬ様子が記憶の中のあいつと重なって、俺はなんとも言えない気持ちになった。それを誤魔化すかのように、頭の後ろをがしがしと掻き乱す。
「連れ帰ることにしたっつったって……またふでさんに怒られるぞ。たぶんこれまで至上に」
「そうなんだよなぁ。なぁトシ、頼むよ。お前も一緒に頼み込んでくれ!」
「はぁ!?なんで俺が」
「ふでさんはお前を気に入ってるんだ。お前は顔だけは良いから。外面も良いし。女を口説くのは得意じゃないか」
「おい、そんな態度で頷くとでも?」
褒めてるように見せかけて悪口だらけじゃねえか。
睨みつけてやると、勝っちゃんはすまんすまんと言いながら悪びれなく笑って、顔の前で両手を突き合わせる。
「お願いだ。頼むよ、トシ」
男の上目遣いなんざ気持ち悪いだけだが、そんな真っ直ぐに頼み込まれると断り難い。
ぐっと言葉に詰まって、少しの沈黙の後、本日何度目かの溜息をついた。
「……分かったよ」
俺は結局、この人の頼みには弱いんだ。
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