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「うん……」
言われなくてもわかってる。
「違くて。俺ほんとは、そんな気を遣わなくていいんだよって感じのことを言いたかったんです」
「ああ」
「ねぇ、土方さんは歳下の扱い上手いですよね。なんかさ……どうやって接すればいいのかな」
「べつに普通に接してやればいいんじゃねえか?変に気遣ったり緊張したら相手にも伝わっちまう。あんくらいの子供は意外にそういうのに敏感だからな」
最後ちらっと意味深にこちらを見てきたのは気になるけど、癪だから無視しておく。
「そうなんですけど……でも、分かってるけど、その〝普通〟が難しいんですよねえ」
「何が難しいって」
けっ、と鼻で笑い飛ばしながら、土方さんは言った。
「べつに、俺らにするときみてぇに自然に話しかけりゃいいだろーが。ともかく、あいつに一言謝っとけ。お前も誤解されたまんまじゃ後味悪ぃだろ?」
「…………」
「勝っちゃんも心配してたぜ。お前らがいつまでもぎこちねぇままだから」
「今すぐ行ってきます」
勇先生の名を出すなんてセコいやつだ。
先生に心配をかけっぱなしにする訳にはいかないので、俺はほぼ反射的に立ち上がって道場の戸に手をかけた。
そして、「おー行ってこい」という土方さんの声をなんとなく聞きながら、がらりと後ろ手に戸を閉めてその場を後にしたのだった。
最後に蛍に会った場所に行くと、そこに彼女の姿はなかったので、少し家の中を歩くと、裏庭の縁側に腰掛けて地面を見つめる小さな後ろ姿を見つけた。見つけると身体が緊張で強ばるのがわかって、無意識に立ち止まる。俺は気配を殺して、一度大きく深呼吸をした。
よし、とにかく謝ればいいんだよね。
自然に、自然に……と心の中で唱えながら、ゆっくりと近づいていく。
その時、ギシ、と床の鳴る音がして、気づいた蛍が肩を跳ねさせた。振り返った彼女と目が合ってしまう。
「な、……に見てんのさ」
ーー間違った。
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