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「ーー勇、ちょっと」
「周助さん」
その時、広間の障子ががらりと滑って隙間から顔を覗かせたのは、この家の主で、勝っちゃんの養父である近藤周助さんだった。
周助さんは勝っちゃんを呼んで手招きすると、視線を子供と俺の方に向けた。
「はは、散髪中だったのか。トシくん、悪いが少しの間その子の相手を頼むよ。勇に話があってね」
「はい。構いませんよ」
入ってきた時の深刻そうな表情が物語っていた。ふでさんにでも事情を聞いたんだろう。話とは、十中八九この蛍のことだ。
「悪いなトシ、蛍を頼む」
「ああ」
申し訳なさそうに眉を下げ、いそいそと腰を上げる勝っちゃんに頷いて、部屋を出て行く二人を見送った。
子供は特別好きなわけではないが、ガキのお守りなら慣れてるから苦ではない。
「蛍、こっち向け」
正面を向かせて座らせる。そのまま目を瞑るように促し、前髪に鋏を入れた。床にぱらぱら落ちないよう、懐紙を下敷きにして、髪を切って行く。
閉じられた瞼から伸びる睫毛が、儚げに白い頬に影を落とす。こうしてみると、幼いながらも本当に整った顔をしてるなと思う。
口減らしで親に捨てられるなんて話は残念なことによくあることだが、こんな上玉なら、捨てるより売り飛ばす方が遥かに家のためにはなる筈だが。何故一人であんなとこにいたのか、考えれば考えるほど不思議だ。
しかし、何にしろ、現状から察するに、こいつの体験が碌でもないもんだったことは確かだ。少なくとも感情の起伏がなくなるくらいには。
「よし、できたぜ。……いい感じじゃねえか、目もちゃんと見えて」
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