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「彼女は、憶えてくれてるだろうか」
問いかけたと言うより、それは完全な独り言だったから、答えはなくともよかった。
だが思いのほか律儀な友人はその小さかったつぶやきをちゃんと拾ってくれていて、少しだけ考えるそぶりを見せる。そしてすぐに、なぜかやたらと頷きながらこちらを見てきた。
「大丈夫だろ」
その言葉は嬉しいが、如何せん言い方が軽い。それを少しだけ不服に感じて、つい眉をひそめてしまった。
「考え込んでないでサッサと準備をまとめろ」
呆れるような、それでいてとても面倒くさそうな顔で言われてしまい再び手を動かす。
「やっと幼馴染みに会えるんだろう? 相手がいないここで思い馳せてないで、サッサとお前が走っていけ」
確かに今考えても仕方はない。
もう十年が軽く過ぎているのだ。無理もあるかもしれない。
ただ憶えているのが自分ばかりなのもさみしい。
そんな心境なのだ。
「やはり、憶えていてほしいな」
幼すぎて記憶など曖昧になっているかもしれない。
せめて小さい頃に手を繋いで連れだって散歩した、そんな風にかかわった年長者がいた程度でもよいから、憶えていてと願わずにはいられないだけだ。
了
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