3人が本棚に入れています
本棚に追加
会議室を見渡した青島は、メンバーがひとり足りないことに気がついた。
「中西はどうした?」
「電器屋さんに寄って帰るって、さっき出て行った。」
涼子はさらっと答えたが、その場には気不味い沈黙が広がった。
「何かあったのか?」
会議室の扉を閉めながら、青島が中へ入ってくると石原と和田は顔を見合わせて、涼子は一息ついて青島に向き直った。
「電話がかかってきてたの。開発部門の宮下さんから。聞いたでしょ?同級生だって。」
「なんて言ってきたのかは分からなかったけど、
あの頃と変わらないねって、未来が返事をして。
でもそれだけよ。あとは、何に一番こだわって商品作ったのかって話をした後に、はりきって出て行った。」
涼子の話を聞いた青島は、腕時計に目をやった。
「ところで、仕事の方は順調ですか?」
青島と目が合った石原は、小さく二度頷くと口を開いた。
「30秒バージョンの映像は、ほぼ完成です。今は15秒バージョンの調整をしていて、あとは未来ちゃんのコピー待ち。来週、社長が出張から帰ってくる日には、目処が立ちますよ。」
石原の答えに、青島は安心したような表情を浮かべた。
「手を止めて悪かった。よろしくお願いします。」
そう言って青島が出て行ったあと、最初に言葉を発したのは、和田だった。
「良かった。あまりにも普通で、拍子抜けしました。」
すると涼子と石原は、憐れみの視線で和田を見た。
「何ですか?その目は。」
たじろぎながら、和田が先輩二人を見返す。
「何にも触れなかっただろ。話を聞いたあと、未来ちゃんのことには。」
石原が言うと、涼子が続けて言う。
「平静を保つためだと思うね。内心穏やかじゃないと思うよ。」
そう言われた和田は、青島が出て行った会議室のドアに視線を向けた。
会議室に戻った青島は、ドサっと身を投げるように椅子に座った。
同時に携帯が短く震えて、面倒くさそうに画面を見ると、一瞬でその表情から険しさが消えた。
『宏さん、家電屋さんで炊飯器を
見てきます。
あとで連絡取り合いましょう。
今日もあと少し⁉︎頑張りましょうね。』
恋人同士になったとは言え、上司と部下だった関係が長かったことと、元々の未来の性格もあるのだろう。
仕事のことが絡むと、依然と全く変わらない節度ある態度で接する未来に、物足りなさを感じていた。
だが、そんな未来だからこそ惚れたのだという自覚もあって、青島は常にやきもきしている。
今だって、宮下からの電話のことも気になりつつ、自分のことなど全く頭になく出て行ったのだろうと思い、やけになっていた。
『気をつけて。
あとで迎えに行く。』
そう返信した青島は、単純な己の気持ちに呆れつつ、姿勢を正すとデスクに向かった。
最初のコメントを投稿しよう!