其々

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会議室を見渡した青島は、メンバーがひとり足りないことに気がついた。 「中西はどうした?」 「電器屋さんに寄って帰るって、さっき出て行った。」 涼子はさらっと答えたが、その場には気不味い沈黙が広がった。 「何かあったのか?」 会議室の扉を閉めながら、青島が中へ入ってくると石原と和田は顔を見合わせて、涼子は一息ついて青島に向き直った。 「電話がかかってきてたの。開発部門の宮下さんから。聞いたでしょ?同級生だって。」 「なんて言ってきたのかは分からなかったけど、 あの頃と変わらないねって、未来が返事をして。 でもそれだけよ。あとは、何に一番こだわって商品作ったのかって話をした後に、はりきって出て行った。」 涼子の話を聞いた青島は、腕時計に目をやった。 「ところで、仕事の方は順調ですか?」 青島と目が合った石原は、小さく二度頷くと口を開いた。 「30秒バージョンの映像は、ほぼ完成です。今は15秒バージョンの調整をしていて、あとは未来ちゃんのコピー待ち。来週、社長が出張から帰ってくる日には、目処が立ちますよ。」 石原の答えに、青島は安心したような表情を浮かべた。 「手を止めて悪かった。よろしくお願いします。」 そう言って青島が出て行ったあと、最初に言葉を発したのは、和田だった。 「良かった。あまりにも普通で、拍子抜けしました。」 すると涼子と石原は、憐れみの視線で和田を見た。 「何ですか?その目は。」 たじろぎながら、和田が先輩二人を見返す。 「何にも触れなかっただろ。話を聞いたあと、未来ちゃんのことには。」 石原が言うと、涼子が続けて言う。 「平静を保つためだと思うね。内心穏やかじゃないと思うよ。」 そう言われた和田は、青島が出て行った会議室のドアに視線を向けた。 会議室に戻った青島は、ドサっと身を投げるように椅子に座った。 同時に携帯が短く震えて、面倒くさそうに画面を見ると、一瞬でその表情から険しさが消えた。 『(ひろし)さん、家電屋さんで炊飯器を  見てきます。  あとで連絡取り合いましょう。  今日もあと少し⁉︎頑張りましょうね。』 恋人同士になったとは言え、上司と部下だった関係が長かったことと、元々の未来の性格もあるのだろう。 仕事のことが絡むと、依然と全く変わらない節度ある態度で接する未来に、物足りなさを感じていた。 だが、そんな未来だからこそ惚れたのだという自覚もあって、青島は常にやきもきしている。 今だって、宮下からの電話のことも気になりつつ、自分のことなど全く頭になく出て行ったのだろうと思い、やけになっていた。 『気をつけて。  あとで迎えに行く。』 そう返信した青島は、単純な己の気持ちに呆れつつ、姿勢を正すとデスクに向かった。
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