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 半グレのグループが、この地域で覚醒剤を派手に売りさばく時期があった。その魔の手は、中高生にまで伸びた。  万能薬だよ、集中して勉強ができるようになる、元気になる、気晴らしにちょうどいい……等と上手い言葉で誘い、真面目な学生達も客として多く取り込んでしまった。  その影響は徐々に地域を蝕んでいく。体調や精神に異常を来してしまう少年少女が増え、中には事件を起こしたり、自ら命を絶つような者まで出た。  県警からも応援を得て、座間署の生活安全課と刑事課で薬物売買に関わる者達を一斉に摘発することになった。  当時は若手刑事の重松と制服警官だった城崎も加わり、犯行グループの拠点を急襲した。  幹部の1人が逃げ出した。重松と城崎の2人が追った。そして、近隣の林へ逃げ込もうとしたその男を取り抑えた。  「観念しろ!」と男の腕を捻り上げ手錠をかける重松。その時、背後に気配を感じた。  見ると、まだ中学生くらいの少年がいる。悲壮感が漂っていた。  重松が振り向いたとたん、突進してきた。手にはナイフを持っている。狙っているのは、逮捕した男だ。  「な、何をする?」  重松は慌てて少年を止めようとした。だが、突然だったこともあり、彼の突き出してきたナイフを右前腕に受けてしまう。  ぐぅ、と呻き声をあげながらも、重松は少年からナイフを取りあげた。  慌てた城崎が少年を取り抑えようとする。しかし、重松は彼を止めた。幹部の男を連れて先に行け、と指示し少年と向き合う。背中越しに、このことは誰にも言うな、と城崎に指示した。  少年は逃げなかった。ただ、連行されていく男を悔しそうな目で睨み続けている。  「なぜ、あいつを刺そうとした?」  重松が訊く。少年はきつく口元を引き締め、今度は重松を睨みつけてきた。
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