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 黙って対峙する時間が続く。重松の傷は大きかったが、何とかネクタイで止血処理をしたのでしばらくは大丈夫だ。  心配した城崎が1人で戻ってきた。しかし、2人の間の緊迫感に息を呑み、何も言えない。  「君はまだ子供だが、今のは立派な殺人未遂だ。何があったのか理由を聞いておきたい。話してみなさい」  「あいつは、姉さんを殺した……」  低いが重く響く声で、少年が言った。怒りと悲しみ、悔しさ、いろいろな感情がその声に混ざりあっているのを感じた。  詳しく言ってみろ、と促す重松。少年は躊躇いながら、そして時に言葉を詰まらせながら、ゆっくりと説明した。  彼には中学三年生の姉がいた。成績が思うように伸びず、進学で悩んでいたらしい。そんな彼女に、あの男は近づいた。言葉巧みに薬を売り、優しく接して親しくなり、彼氏のように振る舞うようになった。姉もそれを歓び、一時期は毎日嬉しそうにすごしていた。  しかしもちろん、そんなのはまやかしだ。  本性を現した男は、友人達にも薬を売ることを強要した。姉自身の薬の量も徐々に増え、情緒が乱れていく。  不審に感じた両親が病院へ連れて行き、薬物の事実が発覚した。入院することになり、警察の取り調べも受ける。   純真無垢だった姉は、急変し続ける日常について行けず、最後は家族へ詫びる言葉を書き連ねた遺書を残し、病院の屋上から飛び降りた――。  拳を握りしめ、涙を滲ませながら、少年はそこまで話した。  重松も城崎も辛い内容に息を呑み、目を伏せる。  「警察がしっかりしないから、あんなヤツらが悪いことをするんだろ? あいつらをあんた達がもっと早く捕まえていれば、姉さんは死なずに済んだんだっ!」  少年の怒りは警察にも向いた。目の前にいる重松と城崎はまさにその象徴だ。激しい言葉が浴びせかけられた。  2人とも、返す言葉が見つからず押し黙る。
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