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 「あんな男を殺すことで、君のこれからの人生の、様々な可能性を閉ざすことはない。きっとお姉さんもそう思うんじゃないかな?」   「それは……」少年の瞳の揺れが大きくなる。  「君のお姉さんはとても不幸な目に遭って死んでしまった。もう戻っては来ない。だから、お姉さんが悲しむとか言われても、きれい事だと思うかい? でもね、こう考えてみてくれないか? あの男を殺しても失われた命は戻らない。しかし、君が忘れない限り、お姉さんが生きていた証しは消えない。命は失われても、その存在は君や残された人達の胸に生き続ける。いつでも思い出せば、会うことはできる。そんな時、君が仇を討ってあの男を殺したことを、喜んでくれると思うかい? そのために君が残りの人生を殺人者としてすごすことを、悲しまないと思うかい?」  「そ、そんなこと……。そんなこと……」  少年は戸惑っている。怒りも疑問もその表情からは消えていない。しかし同時に、大きな迷いも垣間見える。  「この腕の傷を見るたび、この事件のことを思い出すだろう。そして君のお姉さんのことを悼み続ける。警察の力が足らずに犠牲にしてしまったことを詫び続ける。約束する。だから、君はここまでで、その怒りの(やいば)を収めてくれないか。悪に対する強い怒りがあるのなら、それは別のかたちで発揮して欲しい。そして、君の中で生き続けるお姉さんを喜ばせてやってくれないか」  もう一度深く頭を下げる重松。  「そんなこと言われたって……」少年は後退った。声が震えている。瞳からは涙が零れ続けていた。「そんなこと言われたって、わけわかんないよっ! ばか野郎っ!」  最後に叫ぶように言うと、少年は走り出した。そして、あっという間に去っていった。
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