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結局あの少年とは、二度と会うことはなかった。
「その人も立派な大人に成長している、って信じたいですね。いえ、私は信じます」
京花が神妙な顔をしながら言った。
「俺もだよ」と城崎が大きく頷く。「直後は、少年の身柄を抑えるべきかとも思った。でも、重松さんの話で彼は踏みとどまったんだろう。あれで良かったんだ。身柄を抑え形式的に取り調べて、情状酌量の余地はあるとしても何らかの罪に問うていたら、また違う道に進んでいたかもしれない。法や規律、規範は大切だけど、時にはそれを外れて対応した方が良いこともある。その見極めをきちんとできるのが、刑事として必要なことだと教えられた……」
「私も今、しっかりと教えていただきました」
ニコッとしながら敬礼する京花。その仕草に、重松も城崎も微笑む。しかし……。
「だからこそ、私、決めました」
「え? 何を?」
怪訝な顔をする城崎。
「署名です。やっぱり、重松さんが監察を受けるなんて納得いきませんから。署の人達もみんなそう思ってるじゃないですか。皆がどれだけ重松さんを信頼しているか、訴えかけてやります」
意気軒昂に語る京花。
実は、現在重松は、ある行動が問題視され監察の対象となっていた。
「いや、やめなさい」慌てる重松。「監察官に睨まれたら、警察官としての将来が閉ざされてしまうよ。私なんかのことはどうでも良いから……」
「どうでも良くありません。窮屈な警察組織に居心地の悪さも感じていたんです。場合によっては、ここでの将来なんてなくたっていいです」
「おいおい、せっかく刑事になったというのに、もう嫌気がさしたのかい? 京花ちゃんは良い刑事になれると思うから、もうちょっと辛抱して頑張ってほしいけどね」
城崎が苦笑しながら言った。
「重松さんの監察がどうなるか次第で、私も身の振り方を考えるかもしれません」
意地になって言う京花。
やれやれと思いながら、重松はまた窓の外に視線を向け、丹沢山系を眺めた。
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