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こんなこともよくあったな、と懐かしくその様子を眺める。一番上手くやっていた頃には、よくこうして何か食べるものと呑むものを彼は持参して来た。そんな時、袋から出て来るものは決まっている。
「油くらい、あるわな」
出来合いのものではない。白いスチロールにパックされたそれは、肉だったり魚だったりする。そんなふうにして、酒のつまみを作って、集まったメンバーなどに振る舞っていた。
タイジの返事も待たず、彼は台所を端から改め始めた。
「変わんねーのな、お前」
「何がよ」
「まだ料理とかすんのか」
「しねーと、食えんがね」
当たり前のように言う。その返答まで変わってはいない。
あちらこちらの扉を開け閉てする音が止むと、今度は楽しそうな歌声が聞こえてくる。
妙に、穏やかだ。
慣れない平穏にどう対処すればいいものかと、タイジは部屋を見回す。ここは、自分の部屋の筈だ。何をしていればよいものか、など家主であるタイジ自身が決めればよいことだ。それなのに、何も思いつかない。
心なし狼狽ている自分が可笑しく、つい笑いがこぼれてしまう。
「っだあ?」
笑い声を聞きつけ、ユウセイが振り返る。
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