1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
朝の時間、当然図書室の利用者はいない。しかし朝から鍵が開いているとは思わなかった。
「知らなかったでしょ、今日はここだけ閉め忘れいるみたいなの」
「なんでそんなこと……」
「私、何回も今日を繰り返しているから」
もしかしてとは思ったが、改めて言葉にされると戸惑う。とても現実的な言葉ではないから。
でも事実、僕も一昨日と昨日を繰り返した。それを知るのが僕だけじゃないということに、心から安堵した。
「……柊さんはいつから繰り返しているの?」
「分かんない。数えようと思ったけど、メモしても消えちゃうしね」
その言葉から、僕みたいにここ数日ってわけじゃなさそうだ。
「だから学校中に聞いて回ってたんだね」
「そうなの、だけど誰も何も覚えてないしさ、笑っちゃうよね」
「いや、笑えないけど……」
本当に面白い話をしているみたいに柊美雪はけらけら笑う。あまり気にしない性格なのか、一周回っておかしくなってしまったのか分からないが、柊美雪がこんなにも明るく笑うとは知らなかった。
「それで、坂上君はどうして同じ日を繰り返しているって気が付いたの?」
「どうしてって聞かれても、天気が違うなぁと思って……」
「何か理由があるはずだよ。いつもと違うことを何かしなかった?」
いつもと違うこと、いつもと違うこと……。
「……本を買った、恋愛小説」
「どうして?」
「どうしてって……」
僕が柄にもなく恋愛小説なんかに手を出した理由。理由は明白だ、ちゃんと覚えている。だけど、言葉にするのは憚られる。
「どうしたの?言えない理由でもあるの?」
「別にないけど……。……たんだ」
「え?」
「彼女が欲しくなったんだ!」
羞恥心を紛らわせるために声を張った。が、余計に恥ずかしくなった。大声で言うことでもないし、それに彼女が欲しくなったからって恋愛小説って、やっぱり安直過ぎる。
柊美雪は少し驚いた後……鼻で笑った。
「ごめんごめん!でも、そんな理由だとは思わなくてさ」
直ぐに苦笑いを浮かべながら平謝りした。
最初のコメントを投稿しよう!