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「ねぇ、覚えてる?」
柊美雪は、学校中の生徒にそう聞いて回る変わったやつだ。何故そんなことを聞くのか、何の話なのか、そんなことは誰も知らない。答えは単純、柊美雪に訊ねてもその答えが返って来ないからだ。
ただもう一つ、不思議なことがある。
いつから柊美雪がそんな風に聞いて回り始めたのか、そのことは確かに誰も覚えていないんだ。
そんな柊美雪と同じクラスになったのが高校2年の春。彼女のおかげで僕らのクラスに近付こうとする生徒はいない。腫物でも扱うように、僕らのクラスは浮いた存在になっていた。
今日も息が詰まりそうになる教室で退屈な授業を耐え忍び、そしてようやく解放の鐘が学校に響き渡る。
帰りの支度をしていると、クラスメイトの泉順平が話しかけてきた。
「なんだ坂上、もう帰るのか?」
「帰宅部なんだから残る理由もないし、帰るのは当然だろう」
「じゃあどっか寄り道して行こうぜ。明日からまた雨が続くらしいからさ、その前に」
そう言われて教室の窓から外を眺める。今でこそ雲一つなく綺麗な夕日が差し込んでいるけど昨日も一昨日も雨だった。今朝見た天気予報でも洗濯物は今日の内に、って言っていたから確かに遊ぶなら今日なんだろうな。雨の中遊びに行くほどもう子供じゃないし、梅雨が明ければもう夏だ。尚更外に出る気がなくなる。
少し悩んで、答える。
「悪い、泉。また今度誘ってくれ」
「ノリ悪いなぁ、坂上は。そんなんだから彼女がいないんだぞ」
「それは泉もだろ」
「ばっか。ノリが悪いとチャンスすら巡って来ないんだよ。じゃあな、坂上」
「また明日」
多少申し訳ないと思いつつ、教室を後にした。
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