明日の天気は雨です。

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朝を迎えると、僕はいつもと変わらず準備を整え、朝食を食べつつテレビを眺める。 『……続いては天気です。今日は久々に一日中晴れ間が広がります。ただ明日からまた梅雨入り、しばらくは雨が続きそうです。洗濯は今日の内がチャンスです!』 手が止まった。いつもと同じ朝なのに、いつもと同じ朝じゃない。今日と同じ天気予報を昨日も聞いた。さっきまで何も感じなかったのに、急に昨日感じた違和感を思い出す。 そうだ、昨日は晴れていた。そして今日は雨の予報だった。それなのに今日は晴れて、明日は雨の予報だ。 朝食を途中で放り出し、慌てて自室へ向かう。確かベッドに置いたまま寝たはず……。 ベッドの上にはいつもの枕と掛け布団。布団をひっくり返し、ベッドの下まで確認しても、どこにもない。机、引き出し、本棚、部屋中どこを探してもない。……昨日買った『セミ鳴く夏と恋時雨』がない! 昨日だけじゃない、一昨日だって買っているはずなんだ。それなのに僕の部屋には一冊もない。 「……どうなってんだよ」 激しく脈打つ鼓動が教えてくれる、これは夢なんかじゃないって。 いつもより早く学校に向かった。どうしても確かめなくちゃいけないと思ったから。学校に着くと他のクラスメイトと談笑している泉を見つけ、声を掛ける。 「泉、ちょっといいか?」 「何だよ朝っぱらから怖い顔して」 「……昨日って晴れてたよな?」 「はぁ?」 泉の顔が険しくなる。 「坂上、お前ふざけてんのか?だったらあんまり面白くねーぞ」 「ふざけて!……ない、んだよなぁ」 泉も他のクラスメイトも、僕をからかっているようには見えない。 「さ、坂上?」 「……なんでもない。忘れてくれ」 「そ、そうか」 諦めて自席に着く。駄目だ、この違和感に気が付いているのは僕だけだ。……今日を繰り返している。いつまで繰り返せば明日になるんだ?もしかしたら一生、今日のままなのか? 「ねぇ、覚えてる?」 そんな声が聞こえた。顔を上げると、いつも通り、柊美雪に声を掛けられる。 なんで彼女は毎日、そんなことをみんなに聞いて回るのか。一体いつからそんなことを聞くようになったのか。彼女は何を、覚えていると、訊ねているか。 点と点が繋がって、全身に衝撃が走る。感情のままに立ち上がって、柊美雪と目を合わせる。 「……僕、覚える。昨日も一昨日も……晴れだった」 柊美雪は静かに目を見開いた。そして僕の手首を掴むと強く引っ張った。 「ちょっと来て」 「え?どこに?」 「いいから」 クラスメイトの驚きの視線と騒めきを一身に受け、僕は柊美雪に引かれるまま図書室まで連れて来られてきた。
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