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雑誌を片手にビスケットをかじる、矢田の横顔。
あどけない少年のようにも見えて、しかし、したたかに生き抜いてきた男の顔にも見える。どちらが本当で、どちらが装っている顔なのか。
それを見抜いてやろうと、じっと彼を見つめる。僅かな手掛かりも見落とさないように。しかし、どちらも本当のように見えて、崇純は降参せざるを得ない。
そうすると、必死になっていた自分が馬鹿馬鹿しくなり、思わず笑いが漏れた。矢田はそれを聞き逃さず、怪訝な表情で崇純を振り返る。
「…ナニ?」
「や、別に。何でもない」
「やだねー、やらしいて。その笑い」
矢田は軽い調子で崇純に言い、手にしていたビスケットを崇純の口に差し込む。
懐かしい、ほのかに甘い味。乾燥しているそれをかじると、ぱらぱらと粉が零れ落ちる。
「何でこんなんがあんの」
「事務所に落ちとった」
「落ちとったって…」
悪気のない様子で彼は言うが、本当に落ちているわけがない。誰かが置いておいたものを持って来てしまったのだろう。
まったく、仕方がない。
肩をすくめて立ち上がる。
「飲むもん、ないの?」
「冷蔵庫に何か入っとるはず」
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