カナリヤを白日の空に曝せ

4/10
前へ
/10ページ
次へ
 母が亡くなって数ヶ月経った。  盛大な葬儀が行われて以降、たくさんの人達の出入りが無くなり、広い屋敷内は静寂に包まれている。  いつも仕事で家に居なかった父が、部屋に籠る日が増えていた。  「お姉ちゃん」  自室でぼんやりしていた私に、ヨウ汰が声をかける。  「ヨウ汰。どうしたの?」  「・・・いや、何でもない」  そう言ってヨウ汰は扉を閉めた。  私は違和感を覚えたが、追いかけなかった。  ふと思い出すのは、母との病室での会話。  「なんで・・・」  胸焼けのような感覚になり、堪らず部屋を出る。廊下を進んで行くと、角から父が現れた。  声をかけようとしてやめた。  数日振りに見た父は、ボサボサの頭に無精髭。いつから着ているのかわからないよれよれの着流し姿で、ふらふら歩いていた。あんな父の姿を見たことがなかった。  逃げるように洗面所に入り、水で顔を洗う。  それでも、気持ちは晴れないまま。  だから、父の部屋へ向かった。頭に残った母の言葉を伝えるべきかと考えながら。  ノックするが返事が無いので扉を開くと、父が首を吊って揺れていた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加