カナリヤを白日の空に曝せ

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 「辛うじて一命は取り留めました・・・ですが後遺症により、記憶に混濁が起きています」  医師からそう伝えられている時、ベッドに横たわる父を見る。首に赤黒い痕がハッキリと残っている。  私はヨウ汰と2人で父を見下ろす。  「・・・お父さん。お母さんが死んでから、よくお母さんの箪笥を開けてた」  「え?」  「それで、お母さんの洋服を抱き締めて泣いてた」  虚ろな目でヨウ汰が呟く。私は驚愕のような焦燥のような気持ちが湧いてきた。  あの時私は父に伝えていたら、どうなっていたのだろう。  「2人とも」  振り返ると、スズ絵おばさんが立っていた。  「おばさん・・・」  「ヨウ汰、ちょっといい?」  スズ絵おばさんがヨウ汰を呼び、ヨウ汰は先に病室から出て行った。私は呼び掛けたが、ヨウ汰は振り返らなかった。  「カホ莉、あなたにもお話しがあります。そのうち 時間を頂ける?」  スズ絵おばさんは尋ねたが、断言されているようで断れなかった。
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