カナリヤを白日の空に曝せ

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 スズ絵おばさんのお屋敷へ呼ばれ、奥の間へ進んで行く。廊下から見える広い庭に銀杏の木が黄金に輝いていた。親戚の中でも発言力のある人で、お屋敷の大きさも荘厳さも、他とは一線を画す。  「お見合いの話しがあるの」  「・・・え?」  広く瀟洒な奥の間で、お茶とお菓子を挟んで2人で向かい合っている。  「・・・お見合い・・・?」  「そう。あなたももう来年には18歳でしょ?高校も卒業して、丁度良いタイミングかと思って」  私は、思考が絡まり止まった。  「お相手の方はあなたより少し年上だけど、とても立派で素敵な方なのよ。今はグループ会社の銀行で働いていて・・・」  淡々と話を進めるスズ絵おばさんの言葉が、耳に入るが、頭に入ってこない。  「どうかしら、カホ莉。一度お会いしてみない?」  「・・・お、お見合いって・・・私まだ18だよ?そんな、急に・・・」  「別に急じゃないわ。うちの家系では珍しい事でもないし」  「いや、でも、そんなの・・・」  「あなたのお母さんもそうだったのよ」  肩が揺れる。  脳裏に過るのは、母の微笑む顔。  「あなたのお母さんも、最初は戸惑っていたけどね。トシ晴さん・・・あなたのお父さんと会っていくうちに打ち解けて・・・。そして最後まで、美しい夫婦であり続けた」  頭の中で、在りし日の母が立っている。  かすれたホームビデオのように流れている。  「・・・おばさんが、母さんの結婚を・・・」  「私には、一族を守る責務があります」  スズ絵おばさんは穏やかに、はっきりと語る。  「あなたのお父さんはもう働けない。このままではあなたのお屋敷も無くなって、あなたも、ヨウ汰も生きていけない」  「・・・だから、政略結婚しろって?」  「それは違う。相手も一族の関係者だから、政治的な考えは無いわ。ただあなた達を守る為よ」  私は俯き、自分の膝の上の手を見つめる。少し震えていた。  「でも、今すぐ決めなくていいわ。ヨウ汰もお父さんの事業を継ぐように努めてくれてるもの」  「えっ?」  私は顔を上げた。スズ絵おばさんはお茶を飲んでいる。  「ヨウ汰は立派な跡取りとして、トシ晴さんの事業を継ぐのよ」  「・・・ヨウ汰はまだ、中学生だよ・・・?」  「関係無いわ」  「そんなの・・・勝手過ぎるよ!」  つい大声を出してしまった。しかしスズ絵おばさんはお茶を飲み、湯飲みを置くとこちらを見る。  「そういう運命なのよ」  背筋に電気のようなものが流れた。  前にもどこかで聞いた事がある気がした。    スズ絵おばさんとの話を終え、玄関まで向かう。廊下を歩いていると、扉の開いた部屋から微かに音がした。視線を向けると、無人の部屋に鳥籠が置かれている。その中に、黄色い小さな鳥が鳴いていた。  スズ絵おばさんには私が、あの小鳥のように見えているのかもしれない。
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