カナリヤを白日の空に曝せ

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 寒さで空気が澄んだ季節。  鯉が泳ぐ池で父と私は掴み合い、飛沫を上げる。  「・・・お父さん」  「ナツ子は、どこだ?」  「・・・お父さんっ」  「今日は、ナツ子と、舞台を見に、行くん、だっ」  女遊びの激しかった父。  その父が、1人の女性を求めている。  「・・・お母さんは、もう・・・いないのっ」  「ナツ子は、ほんと、にっ、どんくさくて・・・俺がっ、いないと、だめなんだっ」  いつも母を怒鳴っていた父。  いつも父に笑いかけていた母。  「ねぇ、お父さんっ・・・お母さんはもういないの・・・!いないの!!」  「ナツ子っ、ナツ子!」  母の服を抱き締めて泣いていた父。  死の間際に呪いの言葉を吐いた母。  「でも・・・!それでも、生きてくしかないんだよ・・・!生きてかなきゃ駄目なんだよ・・・!!」  それは一体、誰に向けて言ったのか。  日が沈み、父が落ち着いて眠りについた後。  びしょ濡れのワンピースを纏ったまま、私は電話をかけた。  「・・・もしもし、スズ絵おばさん。   私・・・お見合い、お受けします」
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