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二人の先が分からないのは病気が発覚する前と同じだ。そして自然に任せていずれ死に別れるかもしれないことも、誰にでも当てはまる。
だから選べる未来があった俺は幸運だったとしか言いようがない。
井土の手を握ってみる。
手のひらの面積のうち約9割の部分に水分が確認された。ってことは、手汗びっしょりじゃねえか。
触れた場所のデータは頭に浮んでくる。ふと、思い出したようになるこの感じはとても面白い。俺には感覚以外でもこうして相手のことを分かる手段は十分備わっているんだ。
俺は上手くやる。だから、どうかできるだけ長く一緒にいられますようにと、毎日何かに祈ることにした。
「よく夢に見るよ。日差しが暖かかったり。水が冷たかったり。夢の中では普通にもとのまんまだよ。感覚は俺の中にちゃんとある。お前はそれを覚えとけよ」
うんうん、と頷く井土の目からぽろぽろと涙がこぼれた。
途端に俺の頭も猛烈に痛み出す。これは俺が今、全身で感じている愛しさの痛みだ。
俺はこの痛みが嫌いではないが、できれば次のアップデートで少し感度を下げてもらいたいと思った。
おわり
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