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と普段なら叫びながら飛び出るところなのだが、今回は事件が事件だ。誘拐の時は人質の安全が最優先される。
オレはレイにさっき打ち合わせておいた作戦を実行すると伝え、レイの手を引いて保育園に向かって歩き出した。
レイに「今夜のおかずはなんだったっけ?」
と話しながら歩いていく。若者夫婦が子供を迎えに来た体を装ったのだ。レイは、「キッ!……きょ……うは……」
噛んだ……。「ん?ギョウザだったか?」
おれは作戦をやや変更し、アドリブを入れた。すると、「きょうは、カッ……カッ……」オレの華麗なアドリブをスルーし、台無しにしたうえ、元のセリフを言おうとして、さらに噛んだ……。どうもレイは役者には向いてないな……。「そうか!カツカレーだったな!」
オレは仕方なく、セリフを総替えした……。ヤツを見たら、何かに取り憑かれたような形相で歩いてくる。何のために作戦を立てたのか、ちょぴり悲しくなった……。
ヤツまでの距離はまだ数メートルある。(まだ……まだだ……)
そして、すれ違う直前、「今だっ!」
と、オレは犯人と子供との間を割って入るように飛び込んだ!倒れながら犯人と子供を分けるのが狙いだ。倒れる直前、ヤツの手首を手刀で払う。子供と手が離れた!「よしっ!レイっ!」
オレは倒れた直後、そう叫んで子供をレイに向け押し出した。バスケットボールの「チェストパス」の要領だった。レイがしゃがみこんで正面で受け止める!ストライクだ!その直後クロが、「シロが逃げると言ってるわ!」
と脳内に叫んだ。だろうな、と思いながらオレは犯人が走り出そうとする足に自分の足を掛けてやった。未舗装の道路の真ん中にヤツは派手にコケやがった。
受け身がまったく取れてなかったみたいだから、多少怪我したかも知れないな。自業自得だ。オレはゆっくり立ち上がりながら、ズボンの後ろポケットに入れていた手錠を出し、
「誘拐の現行犯で逮捕する!」
と言って犯人の両手を後ろに回してからかけた。「カッケー!」とクロが飛び上がった。
ヤツをすぐにオレの車の後部座席に放り込み、チャイルドロックをかけておいて、レイの所に戻った。「レイ、大丈夫か?」
と言うと、「はい、平気です。この子も無事ですよ」
と言った割に座り込んだままだ。オレはレイにねぎらいの言葉でも掛けないといけないかなと思い、「レイ、本当によくやったな……でもな……」
「でも、なんですか?」
「ウン。でもな……パンツ見えてんぞ」
「キャー!」と言いながらスカートを直した。
オレが本当に言いたかったのは、お前のことは一番信頼してるんだぜ。「これからもよろしくな」
と言いたかったのだが、最後だけ言葉に出した。
その時携帯が鳴りだした。
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