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電話は署からだった。「ハイハイ?」
「何してんだオマエー!」
(イヤ、いきなりオマエ呼ばわりされてもな……)「仕事ですが?」
とちょっととぼけてやった。「今その街の保育園で誘拐事件があったんだ!すぐに行け!」
と係長から怒鳴られた。
「あー、それならもう、大丈夫ですよ?犯人逮捕しましたから」
「はぁ?この暑さでおかしくなったのか?」
「いえ、ホントですよ。タ……イ……ホ、しました」
オレはわざとゆっくり言ってやった。「ウ……ウム、そうか、よくやったな……」
係長から褒められたのは初めてだった。「だから、迎えのパトを回してください。犯人の車もありますし、鑑識もお願いします」
本署からここまでは、距離もあり時間もかかる。オレ達はオレの車で待つことにし、車のクーラーを全開にした。後部座席には犯人が転がっている。助手席にレイが人質だった子を抱いて座った。クロ達はクーラーが嫌いだと言って外で待っていた。
その時、保育園に向かう一人の女性が見えた。地元の中学校の制服のようだ。あれ?どこかで見た子だな。とオレは考えていた。その子がこちらを見た。
オレは、「あれ?もしかして平凛じゃないのか?」
とレイに言ったら、間違いないと即答された。
進路を変え、こちらに向かってきた。「あれ?汐音?汐音じゃないの?」
レイが助手席で抱いていた女の子に平凛は言った。汐音と呼ばれたその子は「あ!おねえちゃん!」
と立ち上がった。なんだ姉妹なのかと思い、オレは説明するために外に出た。
「よう、平凛さんだったな、この子を知ってるのか?」
「はい。私の妹なんです。時々私が迎えに来ているんです」
と平凛は言った。
「そうか。なら話は早いな。保護者、お父さんかお母さんを呼んでもらえるかな?実はな、この子が誘拐されそうになったところを、直前でオレ達が止めたんだよ。で、調書を作らないといけないんだ」
それに被害届も受ける必要がある。平凛ではダメだ。保護者じゃないからな。
20分ほどで、複数のパトカーがサイレンを鳴らして到着した。オレは犯人の身柄を渡した後、保護した汐音ちゃんと平凛を案内して別の車に移動してもらった。やがて汐音ちゃんの母親と名乗る女性も現れた。
その頃には、保育園にはたくさんの親が子供を迎えに来ていたし、小学校も保護者に迎えに来るよう連絡したらしく、車の交通整理に若い警察官が奔走していた。
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