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2.恋のバトラー、平凛登場
オレは署から来ていた刑事に事情を説明したが、クロ達の部分は省いておいた。説明ができないからだ。この場はもう、オレは必要ないとみて、オレは「レイ、帰ろうか」
と言うと、「私も乗せていって下さい」
と平凛。断るのも変だから、後部座席に乗せてやった。レイは助手席だ。オレの車の中に、何とも言えない緊張が広がったのがわかった。
帰る途中、後部座席から「この度は誠にありがとうございました。親族一同に代わりましてお礼申し上げます」
と、これ以上ないくらいの堅苦しいお礼を述べてきた。オレは気押されながらも、「お……おぉ……。妹ちゃん、無事でよかったな」
「はい」
と平凛。しかし、まさか妹まで嫁入り宣言しだすんじゃないだろうな!?とちょっぴり心配もした。「つきましては……」
何かきた!レイはきっと前を向いたまま聞き耳を立ててるんだろう。
「当分の間、私をそばに置いて下さいませ。ダンナ様のお世話をしたいと思います」
まさかの押し掛け女房宣言だった!!オレは、裏声になりながら、「ア、ァ~、そ、それなっ!オレには妹がいるから大丈夫だョ?気持ちだけ頂いとくからさ」
最期の一部だけ、まともな声が出た。しかし平凛は、「いえ、それでは私が祖父から叱られてしまいます。将来の夫に尽くせと命令を受けておりますし」
やっぱ家族ぐるみでそういうことになってやがんぞ!平凛の家の半径1kmは大正時代のままじゃないのか?さて、なんて言えば角の立たない断り方ができるんだ?
その時、レイが急にしゃべりだした。「あのー、申し訳ないですが、この前怪我をさせた責任で、私が毎日看病に行くことになってるんですよ。平凛さんには悪いけど、私が面倒みなくちゃいけないんです……ゴメンなさいね」
対抗しやがった!平凛は「そうですか」
と言って黙った。オレは運転していたから前しか見てなかったが、レイが助手席で目くばせしていることがわかった。「そ……そうなんだよなぁ。まだ肩が痛くてな。イタタタタ……」ほとんど痛みなどないが、レイに合わせてやるか。それにしても、オレもリッパな大根役者だなと思った。
この二人を連れて帰っても、まだ家には優菜がいるんだぞと思いながら帰路についた。クロ達はこの場の空気を読んだのか、ずっと沈黙を守っていた。こいつらを乗せたオレの車は、さしずめパンドラの箱ってとこか……。
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