8人が本棚に入れています
本棚に追加
オレの車が駐在所に着くと、事務所で優菜が仁王立ちになってるのが見えた。「あいつ、なにやってんだ?」
車から降りるなり、優菜がオレの方に走って来て「お兄ちゃん!何やってたの!?」
と一喝された。オレは、カクカクシカジカで……と説明してやると、だいぶ納得してくれたようだった。「署から何度も電話があったのよ?今度こんなことする時は、私にも連絡してちょうだい」
わかったよとオレは言い、車から降りたところでレイと平凛が棒立ちになっていたので、「今回の犯人を逮捕する時手伝ってくれたレイと、被害者の子供の姉、平凛さんだ」
と紹介した。妹は、「あ、レイさんだ。こちらの方は……?」
平凛はすぐに、「ダンナ様の妹君ですか?」
「ちょ、待て待て、誰がダンナだって?違うよ?こちらはこの前の事故の時に助けてあげた神宮寺さんだ。今回の事件の関係者なんだよ、アハハ……」
オレはなんでこんなにも卑屈にならなきゃいけないんだ?と思っていた。「立ち話もなんだから」
と家に入ってもらう。クロ達も続いて入る。
駐在所の居住部分は思ったほど広くはない。ここみたいに古い建物だと特にそうだった。部屋割りは、リビング、ダイニングキッチン、寝室にあとは風呂とトイレという、ほぼワンルームみたいな仕様となっている。
寝室は優菜に使わせてるから、オレの部屋は実質リビングだけになる。そのリビングに皆を通した。広さは6畳。昔ながらの、という表現がピッタリだ。当然だがソファーなんて物は置けるわけがない。ちゃぶ台の周りに、4人で座った。
唯一の家具らしいものは、オレのPCだけで、あとはちゃぶ台しかない部屋だった。寝るときは、押し入れから布団を引き出して、朝にはまた押し入れに戻す作業をしなければならない。
オレのPC周りはオレの趣味の数々が並んでいた。(あまり見せたくなかったな……)「自業自得よね」
クロに言われた……。(うるせ!)と思ってから「イヤー、狭くて悪いな、アハハ……」
オレは話題に困った……。嵐の前の静けさが、平凛の一言で消し飛んだ。
「ダンナ様、うちに来てもらえれば、もっと広い所に住んでもらえますよ?」
すると、「ちょっ、神宮寺さん、何をいきなり言ってんですか」
優菜も引かない。「ここは駐在所なんです。勝手に出ていけないんですよ」
正論だ。警察の扱う書類や、無線機など、保管場所は厳格に決まっている。オレは優菜に教えたこともないのに、一緒に住んでいて自分なりに覚えたのか……。
次はレイのターンだった。「神宮寺さんがオカコ……いぇ、岡野さんに恩を感じているのはわかります。私だってそうですし。助けてもらって何かをしてあげたい事は理解できますけど、あなたはまだ中学生でしょう?学業を放り出してまで尽くすなんて、大人として私はさせられないと思うんです」
ナイスカウンターだレイ、と思ったら、「大丈夫ですよ?私これでも全国統一模試、いつも一ケタ台ですから」
うぉっと!カウンター返しだ!しかし平凛はどんだけサラブレッドなんだよ……。仕方なく、オレは最後のカードを切った。「まっ、まぁ、ともかく、今日は妹ちゃんがあんな目に遭ったばかりなんだ。帰って親を安心させてあげなさい」
オレはやっと大人のセリフを言えた。
「ダンナ様がそういうなら」
と平凛は素直に従って帰っていった。
残されたオレ達は、示し合わせたわけではないのだが、同時に
「ハァ~……」
と大きなため息をついていた。クロも頭の中で同じくため息をついていたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!