2.恋のバトラー、平凛登場

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 オレの車が駐在所に着くと、事務所で優菜が仁王立ちになってるのが見えた。「あいつ、なにやってんだ?」 車から降りるなり、優菜がオレの方に走って来て「お兄ちゃん!何やってたの!?」 と一喝された。オレは、カクカクシカジカで……と説明してやると、だいぶ納得してくれたようだった。「署から何度も電話があったのよ?今度こんなことする時は、私にも連絡してちょうだい」 わかったよとオレは言い、車から降りたところでレイと平凛が棒立ちになっていたので、「今回の犯人を逮捕する時手伝ってくれたレイと、被害者の子供の姉、平凛(ひらり)さんだ」 と紹介した。妹は、「あ、レイさんだ。こちらの方は……?」 平凛はすぐに、「ダンナ様の妹君ですか?」 「ちょ、待て待て、誰がダンナだって?違うよ?こちらはこの前の事故の時に助けてあげた神宮寺さんだ。今回の事件の関係者なんだよ、アハハ……」 オレはなんでこんなにも卑屈にならなきゃいけないんだ?と思っていた。「立ち話もなんだから」 と家に入ってもらう。クロ達も続いて入る。  駐在所の居住部分は思ったほど広くはない。ここみたいに古い建物だと特にそうだった。部屋割りは、リビング、ダイニングキッチン、寝室にあとは風呂とトイレという、ほぼワンルームみたいな仕様となっている。  寝室は優菜に使わせてるから、オレの部屋は実質リビングだけになる。そのリビングに皆を通した。広さは6畳。昔ながらの、という表現がピッタリだ。当然だがソファーなんて物は置けるわけがない。ちゃぶ台の周りに、4人で座った。  唯一の家具らしいものは、オレのPCだけで、あとはちゃぶ台しかない部屋だった。寝るときは、押し入れから布団を引き出して、朝にはまた押し入れに戻す作業をしなければならない。  オレのPC周りはオレの趣味の数々が並んでいた。(あまり見せたくなかったな……)「自業自得よね」 クロに言われた……。(うるせ!)と思ってから「イヤー、狭くて悪いな、アハハ……」 オレは話題に困った……。嵐の前の静けさが、平凛の一言で消し飛んだ。 「ダンナ様、うちに来てもらえれば、もっと広い所に住んでもらえますよ?」 すると、「ちょっ、神宮寺さん、何をいきなり言ってんですか」 優菜も引かない。「ここは駐在所なんです。勝手に出ていけないんですよ」 正論だ。警察の扱う書類や、無線機など、保管場所は厳格に決まっている。オレは優菜に教えたこともないのに、一緒に住んでいて自分なりに覚えたのか……。  次はレイのターンだった。「神宮寺さんがオカコ……いぇ、岡野さんに恩を感じているのはわかります。私だってそうですし。助けてもらって何かをしてあげたい事は理解できますけど、あなたはまだ中学生でしょう?学業を放り出してまで尽くすなんて、大人として私はさせられないと思うんです」 ナイスカウンターだレイ、と思ったら、「大丈夫ですよ?私これでも全国統一模試、いつも一ケタ台ですから」 うぉっと!カウンター返しだ!しかし平凛はどんだけサラブレッドなんだよ……。仕方なく、オレは最後のカードを切った。「まっ、まぁ、ともかく、今日は妹ちゃんがあんな目に遭ったばかりなんだ。帰って親を安心させてあげなさい」 オレはやっと大人のセリフを言えた。 「ダンナ様がそういうなら」 と平凛は素直に従って帰っていった。  残されたオレ達は、示し合わせたわけではないのだが、同時に 「ハァ~……」 と大きなため息をついていた。クロも頭の中で同じくため息をついていたのだった。
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