探しもの

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「ケンジ君、お願いがあるのだけれど……」  彼がお弁当箱をしまっている時に、隣の席の女の子がそっと声をかけて来た。彼女はまだ自分のお弁当を食べ終わっていないようで、自分のお箸をちょんとお弁当箱に乗せて口元をハンカチで隠していた。 「どうしたの? 僕に出来る事があるなら相談にのるよ」 「うん、実は探し物があるの。今日の放課後一緒に探してもらえる?」  探し物かー。学校で何か無くしちゃったのかな? 僕は軽い気持ちで彼女の依頼を引き受ける事にした。  彼女は教室では目立たないけど、僕が教科書を忘れた時には気軽に見せてくれる気立ての優しい女の子だった。  そんな子が困っているのなら、ここは協力してあげるのが人として正しい事だよな。そんな軽い気持ちで彼女の願いを聞いたのが始まりだったんだ。  * * *  キーンコーン、カーンコーン。  帰りのホームルームも終わって、クラスメートの大部分が部活動に行くための準備を始めて教室内はざわついていた。  僕と隣の真紀ちゃんは、お互いに目配せしながら帰り支度をゆっくり行っていた。帰宅部や部活動に行くクラスメート達が教室からいなくなるの待つのに不自然にならないようにしたかったからだ。  ―― ガラガラー。  最後の一人がクラスから出て行った。  これで、この教室に残っているのは、僕と彼女だけだった。  彼女は少しうつむいた状態で上目遣いに僕を見つめて来る。  ドキリ!  あれ? 何、どきどきしてるんだろう。  僕はこれから彼女と一緒に探し物を見つけるのだろう? それだけだよな。  でも、何故か彼女のすこし赤らんだ顔をみていると心臓の鼓動が大きくなってくるような気がした。  外はまだ明るいはずなのに、二人だけの教室はしーんと静まり返っていた。彼は、教室が夜のとばりに覆われている気分に感じられた。 「さ、さ、さぁ! それじゃあ、君の探し物を見つけようか」  二人だけの何とも言えない雰囲気を壊すように、彼は少し裏返った声を出して立ち上がる。 「う、うん。 そうだね。早く探さないと暗くなっちゃうす、し」  彼女も、彼の反応に呼応するように、ちょっとカミながら少し慌ててガタガタと席を立つ。 「それで、何を探せばいいの?」  彼はうーんと背伸びをして、頭をきょろきょろと大げさに動かす。 「うん、ちいさな青い封筒なんだ。表紙には王冠マークが書いてあるらしいの。友達が残してくれたはずなんだけど……」  彼女は恥ずかしそうに、両手で四角い形を作る。四角を形どる彼女の指は白くて華奢で、綺麗だった。 「へー、なにそれ。友人が残した謎の手紙かい? まるで推理小説みたいだね。ちょっと楽しそうだね、僕は後ろから探すね」  彼はチラリと彼女の指を見ると、彼女の指が眩しいかのように直ぐに視線をそらして教室の後ろに向かって、ちょっと大げさに移動し始めた。  * * * 「あれ! もしかたら、これかな」  教室の後ろを一生懸命探していた彼が、突然大きな声を上げた。  学級図書の棚の上に飾ってある花瓶にそっと挟んであった青い封書を見つけて、彼は嬉しそうにその封筒を持つ手を上に上げて彼女に向かって振る。 「え? ありましたか」  教室の前の方を探していた彼女は振り返り、驚いたように彼の方を見る。彼女の艶やかな髪は、動いた拍子にふわりと浮き上がってから肩にかかる。  それから、彼のいる教室の後ろの棚に小走りに向かう。制服は彼女の動きに伴って、フワンフワンと上下に揺れていた。 「これこれ。ほら封筒の表に王冠マーク」 「あ、本当ですね。きっとこれです。封筒を開けて、中を読んでもらって良いですか?」  彼女は彼に近づいてから、彼のもっている封筒を覗き込んでくる。彼女の髪の毛が封筒の中の手紙を持つ彼の手に少しだけかかる。彼女の髪の毛のほのかな匂いが彼の鼻孔をくすぐる。  ……この文章を読んだ人は、あなたの一番大事な人にこれを渡してください…… だってさ。   彼はそう言いながら、封筒の中に入っていた紙を彼女に渡す。  彼はその紙を彼女に渡して一瞬考えてから、「あ!」と声を上げてから右手で自分の口を押えた。口を押えている彼の顔はみるみる赤くなっていった。  その紙を受け取った彼女も、彼の言葉を思い返してから、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。  教室には、グラウンドで活動している生徒たちの活発な声援が、まるで二人の仲を応援するかのように聞こえて来る。  教室は、お互いに顔を赤らめた、彼と彼女の二人だけだった。 了
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