ササヤカな糸

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鍵すら見つけられずに 封じるには惜しくて 歩き回って走り回って いったい何を探しているのか。 自分の中で真田幸村ブームの時は ゆかりの地を巡るのは楽しかったけど 熱が冷めてると面倒くさい。 春休みやのに誰もおらんやん。 狭い境内には参拝者どころか 社務所にも人がいない。 『お昼休み』という貼り紙が窓に貼ってある。 なんでやねん。 一時間もすりゃ戻るか。 どこで時間を潰そうかと思っていると 「にゃーん」と聞こえてきた。 猫? 鳴き声のする方へ歩いて行くと 社務所の横に井戸の看板のそばに 野良猫たち。 と、女の子が一人。 しゃがんで猫の体を撫でている。 ビッッックリした。 俺と同じ中学生くらいやろうか。 高い位置で結んだポニーテールは 俺の存在には気付いてないようで 猫に夢中だ。 「んー、ここが気持ちいいの?」 「可愛いねぇ。イイコだねぇ」 「エサは勝手にあげれないからごめんね」 長い黒髪と大人しめの服装のわりに ド派手なショッキングピンクのリュックで 一人で猫に向かって話している。 応じるように猫がにゃあと鳴く。 この子も参拝者なんかな。 邪魔したら悪いと思って 後ずさりしてその場を離れた。 本殿前で手を合わせて 幸村が休んでたと言われる松の下で 座って歴史に思いを馳せる。 カシャッ。 インスタントカメラのシャッター音。 は?と顔を上げると 気まずそうな顔をした女の子と目が合った。 「ご、ごめんなさい……」 「銅像ちゃうんやけど」 「その、人がいると思ってなくて」 「俺写ってるやろ?カメラ渡して」 「えっ……、それは……」 困った顔をしてカメラを握りしめる。 「うそうそ(笑)。別にええよ」 「あ、じゃあ、写真現像したら送ります」 「いらんいらん(笑)。捨てといて」 「人の写真捨てられないですよ……」 俺が立ち上がると その子は一歩下がった。 「ほな、写真は額に入れて飾っといて」 「えっ」 「幸村の生まれ変わりやと思って拝んだらええやん」 「それはちょっと……(笑)」 笑った顔が可愛くて 写真は送れと言えば良かったと 秒で後悔した。 「冗談やから」 社務所が開いたのが見えたけど 無駄にかっこつけて神社を後にした。 祖母の家に戻って段ボールを開けて 荷物の整理の続きをする。 古いアルバムをめくりながら さっきの子と写真の中の子の 笑った顔が似ている気がした。 俺の好みの問題か? 真ん丸い目が細くなる屈託のない笑顔。 「お守り買い忘れたからもっぺん行ってくる」 駆け出して電車に飛び乗った。
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